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『偉人は死ぬのも楽じゃない』他、有名人の死に方についての本【人間臨終図鑑、知識人99人の死に方】

time 更新日:  time 公開日:2017/02/04

皆様は死ぬことや、死ぬ直前の苦しみを想像して恐ろしくなることはないでしょうか。私は間々あります。
そして怖いにもかかわらず……いや、怖いからこそなのか、人の死に方が書かれている本につい興味を惹かれてしまいます。

そういう本を読むと、やっぱり恐ろしくなってお腹が痛くなるのですが、自分がいざそのような事態に直面した時に、似たようなケースを知っていれば、心構えが違ってくるかもしれない……。つまり、いつくるか分からない、しかしいつかは確実に訪れる死というものへの準備を、そういう本を読むことにより、無意識的に行っているということなのかもしれません。

この記事では、私がこれまで読んだその手の本、『偉人は死ぬのも楽じゃない』『人間臨終図鑑』『知識人99人の死に方』をご紹介します。

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『偉人は死ぬのも楽じゃない』

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ジョージア・ブラッグ著。

ガリレオ・ガリレイ、ベートーヴェン、エドガー・アラン・ポー、アインシュタインなど、19人の偉人の死に方や、生前・死後に受けた処置などが載っています。

1人につき5、6ページが費やされていて、はじめにその偉人についてのちょっとした説明があり、最後に死因となった病気や偉人についての豆知識があります。
それ以外のほとんどの部分を占めているのが、病気の症状や治療法に関しての記述です。それが大変具体的なので、こういっちゃなんですがまァかなりエグイのです。

作者もそれは自覚しているようで、序文で

※警告――血なまぐさい話が苦手なら、この本を読んではいけない
ジョージア・ブラッグ『偉人は死ぬのも楽じゃない』

と警告を発しているほどです。

例えば、お腹に液体がたまってしまったベートーヴェンの病気の治療法。

ベートーヴェン

病院ではベートーヴェンの腹に穴があけられ、そこに管が押しこまれた。たぶんベートーヴェンは人生で最大の痛みを味わったに違いない。鎮痛剤もなく、意識があるまま、くすんだ茶色の膿のような粘液が自分の腹からコップ四〇杯分もあふれ出るのを見守った。全部で一〇リットル近くあっただろうか。傷口を縫う習慣はまだないので、医者は布きれを詰めてベートーヴェンを家に帰した。
ジョージア・ブラッグ『偉人は死ぬのも楽じゃない』

傷口を縫う習慣がまだない」くらいなので、腹に穴をあけるのも恐らく力技でグイグイやったのでしょう。しかもそこに「布きれを詰め」「家に帰した」(入院というシステムもまだなかったのでしょうか)……!

その後数週間以内に、同じ治療が更に3回行われたのだとか。穴はもうあいているので2回目からは楽なのかな……と思いきや、不衛生なためか穴が炎症を起こしたそうで、やはり想像を絶する痛みや苦しみを味わったことと思われます……。

『人間臨終図鑑』との書き方の違い

このベートーヴェンの治療法が、後に出てくる『人間臨終図鑑』の場合、

一八二六年秋ごろから腹水がたまりはじめ、十二月二十日に最初の腹水穿刺が行われ、翌一八二七年二月十七日に四回目の穿刺が行われた。
山田風太郎『人間臨終図鑑 中』

という書き方になります。『人間臨終図鑑』では事実を淡々と述べていますが、『偉人は死ぬのも楽じゃない』はそれをもっと噛み砕いてくれているので、良くも悪くも情景が浮かびやすいです。

【八つ墓村など】津山事件(三十人殺し)を題材にした映画、漫画、本、絵」という記事で触れたのですが、調書では「軟部は挫滅し創縁不正なり云々」と書いてある傷口のことを、松本清張が「ザクロのような口になったのである」と表現していて、これも絵面がパッと思い浮かんできて唸ったものですが、『偉人は死ぬのも楽じゃない』はこのような感じで当時の状況を分かりやすく(ちょっと大げさに?)書いてくれています。

ただ、調書のような『人間臨終図鑑』と、描写が分かりやすい『偉人は死ぬのも楽じゃない』、どちらがいいかは読む方の好みによると思います。
映画でいうなら、『人間臨終図鑑』はドキュメンタリーらしいドキュメンタリー、『偉人は死ぬのも楽じゃない』は実話をもとにしたスプラッターホラー(R15くらい)といった感じかもしれません。

ガリレオ・ガリレイ

その他にエグイと感じたのは、ガリレオ・ガリレイのヘルニアについての描写です。

下腹部の弱くなった筋肉のつなぎ目には穴があき、そこから腸が飛びでている。ヘルニアだ。穴をふさぐため、脱腸帯という重い鉄製の器具を毎日つけなくてはいけない。
ジョージア・ブラッグ『偉人は死ぬのも楽じゃない』

調べた所、鼠径ヘルニアというそれらしい病気が見つかりました。大変痛そうです……。そして毎日鉄製の器具を……面倒だろうし重かったでしょうね……。
その上痛風や緑内障まで患っていたとか。こんな状態で異端審問にかけられたというのですからヘビーすぎます……。

ガーフィールド

第20代アメリカ大統領・ガーフィールドの治療もえげつなかったです。

就任後わずか4ヶ月で凶弾に倒れたガーフィールド。銃弾を取り出すべく、医者たちがガーフィールドの背中にあいた穴に指を突っ込んでグリグリ……。見つからないので探り針を刺してまたもグリグリ……。グリグリしすぎてなんと傷口が30センチほどに広がったのだとか……!
しかも当時はばい菌の存在を気に留めておらず、手も器具も消毒されていない状態でグリグリしていたという(そして結局銃弾は見つからず……)。

そのため大統領は感染症にかかったのですが、なんとその後80日ほど生きていたそうです。その間の激烈な症状や医師のとんでもない処置は身震いするほどの恐ろしさです。ガーフィールドの体重は亡くなるまでの間に45キロも減ってしまったとのこと(Wikipediaによると、もとの体重は200ポンド=90kg以上あったということなので、半分以下の体重に……)。

死後の解剖の結果、銃弾は捜していたのとは全く別の場所から見つかったそうです。これについて作者は、

医者が汚い手をどけていれば、ガーフィールドは命を落とさずにすんだだろう。
ジョージア・ブラッグ『偉人は死ぬのも楽じゃない』

とキツイひと言をピシャリと言い放っています。

当時の医師としては最善を尽くそうと必死だったのだと思いますが、現代から見るとそういうことになってしまいますよね……。

この他にも、「医者が下手にいじくり回さないほうが逆によかったのでは……」という話がチラホラ出てきます。

その他気になった治療法……すぐ血を抜く

ちょくちょく「血を抜く」という治療法が出てきます。

単純に刃物で傷をつくって血を出す瀉血方法が有名ですが、その他にも、

  • ヒルにわざわざ血を吸わせたり(モーツァルトが吸われたらしい)
  • 皮膚に傷をつけてガラスのカップをかぶせて真空状態にして血を噴き出させたり(吸角法――一般的な瀉血やヒルよりも痛いらしい)

と、様々なバリエーションがあったようです。

昔は体に悪い血がたまることが病気の原因という考えがあったそうで、ワシントンも医師にナイフで腕を切られて、なんと2.4リットルほども血を抜かれたのだとか(成人男性の体内の血の量は5.7リットルくらいだそうなので、半分近く……)。
しかもワシントンは喉の病気……。現代なら、「腕の血を抜いても治らんだろう!」と素人でもついツッコミを入れたくなってしまいますが、当時はこういった治療法しかなかったということなのでしょう。

その他興味深かったミイラに関しての知識

ツタンカーメンの章にミイラに関してのミニ知識が載っていました。

ミイラの眼窩は空洞に見えるが、じつはそうではない。死体を乾燥させる過程で、目玉は完全にしぼんでごくごく小さくなっており、奥に張りついている。
ジョージア・ブラッグ『偉人は死ぬのも楽じゃない』

ミイラの目玉を水で戻すと、ほぼ元どおりの大きさになる。
ジョージア・ブラッグ『偉人は死ぬのも楽じゃない』

これすごくないですか……!? 私はこれを知ってなんだか興奮してしまいました。いつかミイラの目玉を水で戻してみたい(多分そんな機会は永久にこないだろうけど)……!

それとこれは聞いたことがある方が多いかもしれませんが、昔はミイラが薬として利用されていたとか。
てんかん動悸はしか潰瘍などに効くとされ、副作用は口臭ひどい嘔吐……って、果たしてそれだけの副作用で済むものなのでしょうか……!?

『人間臨終図鑑』

Amazon

山田風太郎著。

上でも少し触れましたが、同じく有名人の死に方を書いているとはいえ、『偉人は死ぬのも楽じゃない』より淡々とした描写になっていて、正に「臨終図鑑」といった趣がある本です。
文章とはいえあまり過激な表現はちょっと……という方は、こちらのほうが読むのに適しているかもしれません。

全部で3巻に分かれていまして(徳間文庫の旧版。新装版は全4巻)、

死亡した年齢 人数
1巻 10代~55歳 324名
2巻 56歳~72歳 307名
3巻 73歳~100歳代 292名

角川文庫版では「上・中・下」巻となっている

あわせて923名の有名人の死に方が紹介されています。
これだけの人数が収められているため、ひとりにつき長くて2、3ページ、短いと数行の説明になっています。

作家、画家、映画監督、歌手、俳優、政治家、軍人、実業家、武士、学者、貴族、宗教家……などなど、有名人の職業は多岐にわたります。
『偉人は死ぬのも楽じゃない』は作者がアメリカの方なので、残念ながら日本人はひとりも出てきませんが、『人間臨終図鑑』は日本人が多めです。

判明している限り死因が書いてあるのですが、3分の2くらいが病死(癌、心筋梗塞、脳溢血、脳卒中、結核など)、残りが怪死変死(武士の切腹や事故、自殺、殺人など)という感じでしょうか。
病死の内でも、更に「眠るように」群と「苦しんで」群に分けることができそうです。眠るように……はポツポツいましたがかなり少なかった気がします。
人間、年をとるとどこかしらに不調が出るようで……。病気もしないで突然コロッといくなんていうのは、夢のまた夢なのかもしれませんね。

印象深い病気の表現

『偉人は死ぬのも楽じゃない』と違って、えげつない表現はそれほど多くはないのですが、宮武外骨の床擦れの描写はちょっとキツかったかも……。

外骨の肉体は、床擦れなど、すでに生きながら腐れはじめていた。背筋や手足の床擦れは、肉を破り骨を露出させていた。
吉野孝雄『宮武外骨』

ただその部分は、上に書いたように、吉野孝雄『宮武外骨』(現在は改題されて『宮武外骨伝R』)というまた別の本の引用なので、そこだけ少し浮いている感じがありました。

それと徳富蘆花もベートーヴェンと同様に腹水のため穿刺を施されたそうで、

腹水排除の穿刺による針の跡がふさがらず、ジメジメと腹水はもれつづけた。
山田風太郎『人間臨終図鑑 中』

のだとか。
穴に布きれを突っ込まれたベートーヴェンに比べたらまだマシなのかもしれませんが(穴、というと相当大きく感じてしまいます)、「ジメジメと腹水はもれつづけた」という表現が静かな恐怖をそそります……。

恐るおそる調べてみた所、穿刺は現代でも行われることがあるようです。
どうか腹水がたまる病気になりませんように……!

『知識人99人の死に方』

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荒俣宏監修。

これは日本人のみ、そして題名どおりに知識人ばかりの死に方を集めた本です。画家や漫画家がまじっていますが、主に作家です。

ひとりにつき1、2ページの文章量のことが多いですが、99人の内12人が特にピックアップされて、10~15ページほどずつ費やされています。このピックアップページでは、有名人の死に方よりも生き様に焦点が当てられていることが多いように感じました。

中でも印象的だったのが、「生まれないのが一番幸せ~反出生主義や虚無的、厭世的な言葉集」という記事でも少し触れた永井荷風。

永井荷風

子供を生み育てるのが人としての当然の義務だった時代にあって、2度の短い結婚期間も断固として避妊具をつけ通し(中略)、離婚してからも女性との関係はすべて金銭で済む相手とのみ。
『知識人99人の死に方』

莫大な財産を詰めたボストンバッグを傍らに置き、最後の日々は日記に日付と天候だけをやっとのことで書きとめ、部屋でひとりきり血を吐いて亡くなっていった荷風。
生涯徹底して個人主義を貫き通した永井荷風は、現代でいう所の「孤独死」の先駆者といえるのかもしれません。

深沢七郎

作家の深沢七郎についての病気の話も恐ろしいものがありました。
心筋症の発作を初めて経験したのが54歳の時、それ以後73歳で亡くなるまで約20年間、何十回とこの発作に襲われたといいます。
その苦しみは、

胸の上に百貫分の重さの石が乗ったような苦しみ
『知識人99人の死に方』

なんだとか。ご本人は、

この世の中には恐ろしい病気があるねえ。それは”死ねない”という病気だよ
『知識人99人の死に方』

と仰っていたそうです。
死ぬこと自体も怖いのですが、死の直前の苦しみを想像するとこれもまた怖いです。否、むしろそちらのほうが恐ろしいかもしれません。
しかしこの方はその死ぬような苦しみ(本書では「死のリハーサル」という言葉が使われています)を何十回と味わわなければならなかった……。
生きるも地獄、死ぬも地獄とは正にこのことです。

その他

生まれないのが一番幸せ~反出生主義や虚無的、厭世的な言葉集」という記事では稲垣足穂にも少し触れたのですが、この方については死に方より生き様のほうにあまりにもスポットが当てられているので、ここでは割愛します。ただ、無茶苦茶性格が悪いジジイだったことが伝わってきて面白いとだけいっておきます。

それと巻末に、「著名人怪死・変死一覧」や「死因別INDEX」というどこかで使えそうな……そうでもなさそうな……データが載っています。

あとがき

こういった本を読むと、どんな偉人でもいつかは死ぬという儚さを感じます。しかしそれと同時に、生前は全くその行いが認められず、死後になってやっと……というケースがあったりもするので、やはり生きている内にやれることはやっておいたほうがいいのかな、という前向きな気持ちにもさせられます。

私は割とエグイ話が好きなので、『偉人は死ぬのも楽じゃない』にはかなり興味をそそられました。しかしそれでも時折描写がエグすぎて、力がぬけるような感覚に襲われることも……。
病気の症状もなのですが、それよりもやはり昔の治療法がトンデモすぎて驚かされました。
しかし作者の方も書いていたのですが、未来から見れば現代の医療技術もまた野蛮極まりないものなのかも……。

医療の最終到達点を、不老不死及び病気にならない方法を発見することとするならば、現代の医療なんてものは発展途上もいい所でしょう――否、不老不死までは無理としても、せめてあらゆる病気を治療できるくらいには進歩してほしいものです。
しかしそれすらもまだ実現可能かどうか分からないので、そうするとやっぱり生まれないのが一番楽かな、痛くもならないし病気にもならないし死なないし……とつい考えてしまいます。

とはいうものの、もう生まれてきてしまったものはどうしようもないので、なるべく健康に気をつけて暮らしていこうと思います。

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