
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』を鑑賞してきました。
以下ガンガンネタバレありでつらつら感想を書いていきます。
ヤ〇ザのようなセイレーン
伝説の生物セイレーン。人魚3匹をお供に従えて、突然島にやってきて大量の食べ物を要求する。
セイレーンの歌声により農作物がよく育つので、島民は恐れながらも言われた通り食べ物を渡して、しばらく共存していた。
セイレーンはまるでみかじめ料をもらっているヤ〇ザのような存在といえそうである。
人魚が行方不明に
ある日、セイレーンのお供の人魚の内の1匹が行方不明になる。うろこが落ちていて、それは島民たちの集落の途中まで続いていた。
セイレーンは島民の誰かが人魚を殺して食べたのではないかと疑っている。
その犯人が分かるまで、島民をさらっては味噌漬けにして食べることにしたという。
やられたらやり返す。血で血を洗う抗争が幕を開けたのである。
真相
時は少し遡る。
ある日、仲良しの島民2人組がボートに乗って釣りをしていた。そのすぐそばで、セイレーンと人魚たちも水遊びをしていた。
水遊びに夢中になったセイレーンが、無意識の内に2人の乗ったボートを転覆させる。
島民Aはそれにより瀕死の状態に。
— ちいかわ💫アニメ火金 (@ngnchiikawa) November 5, 2023
島民Bは、島民Aを助けるべく、人魚の内の1匹をしるこサンドでおびき寄せて殺し、煮付けにする。
人魚の肉を食べると不老不死になると伝説の生物図鑑に書いてあったから。
実際島民Aは人魚の肉の煮付けを食べると回復した。島民Aは、島民Bにも人魚の肉の煮付けを食べるよう強要する。
すると2人のお尻のあたりに単三電池を入れる部品のようなものが出現した。
単三電池を体から抜くとまさに電池が切れたように動かなくなる。機械仕掛けの体に変貌してしまったのだった。
2人はこうしてともに不死の体を手に入れ、それを2人のひみつにすることにする。
— ちいかわ💫アニメ火金 (@ngnchiikawa) November 9, 2023
「いつまでも絶えることなく友達でいよう」の呪い
ボートを転覆させられて、島民Aが瀕死の状態になった。仲良しの島民を助けたい――ここまでは分かるが、「じゃあ人魚の肉を食べさせよう」という発想になるのがすごい。
セイレーンたちへの復讐が第一の目的という訳ではなく、純粋に瀕死の友達を助けたかったのだろうが、原因が彼らなので、憎しみもあってのことかもしれない。
ただ一般的な感覚であれば、真っ先に他の島民に助けを求めるのではないか。
もしかしたら2人は、互いにべったり依存しすぎていて、島の中で孤立ぎみだったのではなかろうか。
島民Bは、人魚を殺して食べたら、他の島民に迷惑がかかる恐れがあるとうすうす分かっていたかもしれない。
それでもそれを決行したし、実際に被害が出てからも、2人は自分たちがしたことを隠していた。
自分たちが属する共同体よりも、2人のひみつを優先した。
映画の前半で、ハチワレが歌っていた『今日の日はさようなら』の一節、「いつまでも絶えることなく友達でいよう」が、まるで呪いの言葉のように感じられる。
ちいかわの歪んだ優しさと、ハチワレの「課題の分離」
島民2人が人魚を殺した犯人ではないかと気付いたちいかわ。
ちいかわは2人に近寄るが、2人が固く手を握り合い、その手がブルブル震えているのを見て、何も言わないでおくことにする。
— ちいかわ💫アニメ火金 (@ngnchiikawa) November 17, 2023
ひみつを共有したことで、2人の結束はより固くなったのだろうが、ちいかわはひとりでひみつを抱え込んでいる。
これはただただつらい。周りに打ち明けるべきだったと思う。でもおおごとにして、2人が大変な目にあうことを恐れたのだろう。
ちいかわは2人を見逃す。これは正しくはないが優しさではある。しかし少し歪んだ優しさな気がする。
太宰治が弱者にかける優しさに似ているかもしれない。

ハチワレは、ちいかわと2人の様子を見て「何か……あった……?」と聞くが、ちいかわが首を横に振ると、それ以上は追及しない。
人との適切な距離感をとるのが上手いのだろう。
ハチワレは『嫌われる勇気』のアドラー心理学「課題の分離」を素で実践できているのかもしれない。
島民2人が向かった先
— ちいかわ💫アニメ火金 (@ngnchiikawa) July 24, 2023
いつかは自分たちが不死だとばれてしまうし、ちいかわにも勘付かれたようなので、潮時だと思ったのか、島民2人は集落を離れる。
セイレーンはもしも犯人を見つけたら、「カラダピッタリのオリに入れて、深くてくらーいとこで『永遠のいのち』を味わってもらう」罰を考えているといっていた。
それを覚悟して、自らセイレーンのもとに向かったのか――と思ったらそうではなくて、ちゃっかり別の島で新たな生活を送ろうとしてるという。やはりかなりふてぶてしい2人。
— ちいかわ💫アニメ火金 (@ngnchiikawa) November 26, 2023
このあたりもリアルで、フィクションの世界では、自ら罰を受けに行く悲愴な覚悟が美しく描かれがちだが、現実なら確かに怖くて逃げるだろう。
しかしセイレーンは2人の匂いを嗅ぎとったのかしっかりと追いかけてきた。2人のいる島に向かって泳ぐセイレーンが映ってEND。
結局2人の末路は「カラダピッタリのオリに入れて、深くてくらーいとこで『永遠のいのち』を味わってもらう」になるということ……。
わかりやすい勧善懲悪ではないのがリアル
島民2人は、2人の世界に閉じこもっていて、それが事態をどんどん悪化させた。
しかし事の発端は、島民Aがセイレーンに傷付けられたこと。
セイレーンに悪気はなかった、というか島民2人の存在にすら気付いていなかったが、そもそも島民たちを軽んじていた節がある。
ただ物理的に体のサイズが違いすぎる。セイレーンにとって島民たちは、人間から見た虫みたいな存在だろうから、仕方ないといえば仕方ない。
しかし島民2人は泣き寝入りするのはくやしい。やりきれない。気持ちは分かる。
分かるけれども、やはりもっと違うやり方があったはず。
セイレーンにしてみれば、突然仲間が殺されたのだから、怒るのは当然である。
ただ島民2人も、ちいかわたちとはUNOをやったりして打ち解けた感があったのか、ラッコ先生がさらわれた時に一緒に助けに行ってくれたり、激辛カレーを食べてのたうち回るセイレーンのしっぽからちいかわたちを守ってくれたりもして……(そのせいで電池をセイレーンに見られてしまう)。
ただただ自分たちをかばっているだけという訳でもない。
それでもやはり、相手に過失があってこちらが傷付けられたからといって、故意にぶん殴り返すのは駄目だろう。
しかしその罰が「カラダピッタリのオリに入れて、深くてくらーいとこで『永遠のいのち』を味わってもらう」は、ちょっと重すぎるか……。
どちらも加害者であり被害者である、どちらの気持ちも分からなくない、現実でもこういうことが往々にして起こる。
わかりやすい勧善懲悪ではないからもやもやする。
タンサンの伏線
— ちいかわ💫アニメ火金 (@ngnchiikawa) March 26, 2023
島に着いたちいかわが船酔いしたので、ハチワレが例の島民2人に「炭酸とかありませんか」という。
そこで島民2人になんだかおかしな間が生まれる。
言葉が通じないのか? と思いきや、「さっぱりするような飲み物」という言葉を受けて、すぐに炭酸を持ってきてくれる。
後にちいかわたちをかばってセイレーンに吹っ飛ばされた島民Aが「タン……サン……」という言葉を漏らすが、これは単三電池が外れたので電池を欲していたということ。
後から考えると、上のおかしな間の訳も分かる。2人にしてみれば、「この人(ちいかわ)も単三電池で動くのだろうか」と一瞬戸惑ったということだったのだ。
炭酸と単三の伏線、見事だった。
陰の主役・島二郎
仲間がみんなセイレーンにさらわれてしまい、ひとりになってしまったちいかわ。
フラフラになって辿り着いたのが島二郎の貝汁の店。
島二郎は見も知らぬ仲間を救うために、ちいかわと共に水中のセイレーンの棲み処に潜入してくれる。
そしてセイレーンが起きそうになったら波の音の口真似をしてセイレーンを寝続けさせたり、仲間たちを救った後にひとり引き返し、セイレーンを説得しようとしたりする。
誤魔化し方最強説 pic.twitter.com/YowH5960RM
— ちいかわちゃんねる(՞⸝⸝o̴̶̷̥᷅ ⌑ o̴̶̷̥᷅⸝⸝՞)❤ (@Chiikawa_ch_) August 30, 2023
セイレーンを倒した激辛唐辛子を持っていたのも島二郎。真っ先にツタと戦ってくれたのも島二郎。
陰の主役といっても過言ではないくらいの活躍ぶりである。
おわりに
悪気なく誰かを傷付けたことにより復讐の連鎖が生まれる、という図式は韓国映画『オールドボーイ』のようではないか。
そしてちいかわからは太宰治の弱者への歪んだ優しさを、ハチワレからはアドラーの「課題の分離」を連想し……。
島二郎の波の音の口真似や、モモンガに引っ張られてびろびろに伸びたちいかわの耳にクスっとさせられ、島民2人の末路「カラダピッタリのオリに入れて、深くてくらーいとこで『永遠のいのち』を味わってもらう」を想像してはゾッとなり……。
スカッとしたフィクションが好きな方だと楽しめないかもしれない、リアルなもやもや感が残る映画。
私は鑑賞後にアレコレ考えられる映画が好きなので観てよかったです。
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