前半で女性が襲われて、後半本人や家族が復讐するというリベンジムービーが70年代に流行したようです。
こういう映画のどこがいいかというと、残酷な行為が悪人への制裁としてなされるので、あまり胸が痛まない所でしょうか(あくまで私の場合ですが……)。
しかし前半部分の女性が傷めつけられる部分が観ていてキツい……というのがデメリットです。
前半でマイナス100位の気分になって、復讐により+5位まで回復するというか……(しかし前半がエグすぎてプラスの領域まで気分が浮上しないこともあります)。
以下で私が鑑賞したその手のリベンジムービーを紹介してみます。
目次
鮮血の美学
17歳の女の子2人組が、コンサートを観るために都会にやってきた。少しだけ羽目を外そうとした所、2人は最悪の状況に陥り……。
1972年。『エルム街の悪夢a』『スクリームa』などのウェス・クレイヴン監督のデビュー作。プロデューサーは『13日の金曜日R』の監督であるショーン・S・カニンガム。
上に挙げた監督たちの代表作はガチガチのホラーですが、この『鮮血の美学』にはスプラッターシーンはほとんどありません。復讐の場面にしても直接的な描写はなく、割とアッサリしています。
かといって、邦題の『鮮血の美学』(原題は『The Last House on the Left』)がしっくりくるほど美しい映画でもありません。
全編通してなんだか不快です。現代でいう所のDQNの描写がうまいからかもしれません。時々陽気なシーンや音楽が挟まれるアンバランスな所も不快感を増している気がします。
また映像が安っぽいためか、前半の女性がいたぶられるシーンが妙にリアルです(さんざんひどいことが行われた後、変にしらけた間があるなど……)。
ちなみにリメイク『ラスト・ハウス・オン・ザ・レフト ―鮮血の美学―R』もありますが……2時間近くあって、見所は本当に最後の最後だけかも……。
イヤ~な雰囲気は断然オリジナルの方が強いです。
『鮮血の美学』の元ネタとされている『処女の泉』
巨匠イングマール・ベルイマン監督の1960年の映画。
ウェス・クレイヴン監督はこの映画をもとにして『鮮血の美学』を作ったそうです。
確かにあらすじはよく似ているのですが、雰囲気が全く異なります。『処女の泉』はかなり宗教色が強いです。
暴行や復讐シーンも『鮮血の美学』より遙かに薄味です(当時としては題材自体がショッキングだったのでしょうが……)。
『処女の泉』から宗教色を除いて、暴力に焦点を当てて超俗悪に仕立て上げたのが『鮮血の美学』といった感じです。
ゼイ・コール・ハー・ワン・アイ〜血まみれの天使〜
幼い頃にイタズラをされたことにより口がきけなくなったフリッガ(クリスチナ・リンドバーグ)。
そんな彼女にまたもやひどい災難が襲いかかる……!
ヘロイン漬けにされたり片目をえぐられたり売春させられたりしながらも、その地獄の状況からなんとか脱け出そうとするフリッガが健気です。
他のこれ系の映画で、「なんでそんな急に女の人が強くなっちゃったの……!?」という映画もあるのですが、この映画ではトレーニング場面があるので納得できます(ヒロインの空手はちょっとヘッポコな感じではありますが……)。
無駄にスローモーションを多用しているのは賛否が分かれそうです(インチキ臭くて私は大好き)。
そしてロリ顔のクリスチナ・リンドバーグさんが平気でポロポロ脱いでくれるのがなんともたまりません。
しかし途中出てくる本番シーンのドアップはクリスチナ・リンドバーグさんではなく代役の方だそうです(参考:Film Bizarroのインタビュー……”Controversy?”のあたり)。
『キル・ビル』のエル・ドライバーの元ネタ
エル・ドライバー|Villains Wiki
ちなみに、『キル・ビルa』のエル・ドライバーが眼帯をしているのは、『ゼイ・コール・ハー・ワン・アイ〜血まみれの天使〜』が元ネタなのだとか。
以前は日本語字幕のDVDがAmazonで販売されていたのですが、現在は英語字幕のDVDしかないようです……。
暴行列車
2人の女学生が、クリスマスに実家に帰省するために列車に乗り込んだ。その列車には見るからにあやしげな2人組の男と、一見上品そうな婦人客がいて……。
1976年。『鮮血の美学』と筋が似ていますが(特に後半)、現場が野外ではなく列車内というのが大きな違いです。夜の列車内の青っぽい照明に不安をかき立てられます。
また、加害者側の女性がDQNではなく上流階級の女性です(でもスキモノという……)。
『鮮血の美学』より血は少し多めかも(ショックシーンがちゃんと映っていれば『鮮血の美学』の方が状況的には断然スプラッターなはずなのですが……)。
それとラストに決定的な違いがありまして、それにより私は『暴行列車』の方が後味が悪く感じられました。
リップスティック
スーパーモデルのクリスが撮影の仕事をしている所に、妹が音楽教師を連れて見学に来た。クリスは、後日音楽教師の作った曲を聴くという約束をするのだが……。
1976年。他の復讐もの映画の場合、ヒロインや家族が物理的に復讐するのが定番ですが、この映画はそのほとんどを法廷シーンに費やしています。社会派復讐映画といえるかもしれません。
では物理的に復讐するシーンが出てこないかというと……???
役柄と同じで、実際にスーパーモデルだったというマーゴ・ヘミングウェイ(作家ヘミングウェイの孫)の抜群のスタイルと、音楽教師(コイツがまァネチネチしたイヤ~な男なんです……)が作曲しているヘンテコな電子音楽が印象的です。
また、ヒロインに妹がいるのですが、マーゴ・ヘミングウェイの実の妹だそうです(マリエル・ヘミングウェイ)。
ウィークエンド
歯医者とモデルが車で別荘に向かう途中、チンピラどもにつけ回されて……。
1976年。別荘に向かう道中から、モデルの気の強さが伝わってきます。それが後の悲劇に繋がる原因といえるかも……。
しかしもちろん悪いのはチンピラどもです。奴らがやりたい放題やる様子は本当に鬱陶しいですし、実際にこんな奴らに居座られたら……と思うとめちゃくちゃ怖いです(『わらの犬R』に通ずる怖さがある気がします)。
そして唯一の味方である歯医者は金をちらつかせることしか出来ずに、余計にチンピラどもの反感を買います(なんとも頼りない……!)。
この映画では、女性がそこまでメチャメチャにはされません。
その割に復讐……というか、逃げ出すためにやむを得ないとはいえ、結構残酷な手口で男たちを血祭りに上げていきます。
それも女性が急に怪力になる! などという感じではなくて、知恵と度胸を用いて目的を成し遂げていきます。
前半の女性のいたぶられ方がヘビーなほど後半の復讐が活きる……! という意見をお持ちの方には、前半部分がちょっと物足りないかも……?
しかしチンピラどもの凶悪さはしっかり伝わってくるので、女性が過剰防衛しているようには見えないと思います。
ところでラストにちょっと納得がいかないことが……。
「あれ、私、もしかして……?」的なことを匂わすシーンがあるのですが、それはさすがにないと思います……!
フェミニストが観たらきっとカンカンです。
ヒッチハイク
ある夫婦がキャンピングカーで旅をしている。そこにヒッチハイクをしてくる男性が現れて……。
1977年。夫婦2人で車の旅……というとなんだか仲が良さそうですが、実際はそれほどでもないようで……。
開始1時間位はあまり動きがないのですが、後半かなり盛り上がってきます。
旦那さんが縛られている目の前で……! しかも奥さんが割とスンナリ受け入れて、終いにはちょっと喜んじゃうという(後に演技だった、と判明するのですが……)。それをガン見することしかできない旦那……。
こういったことがしこりとなったのか……? ラストは他の復讐映画とは違い、ちょっと予想外な方向へ転がっていきます。
奥さん役は『O嬢の物語a』に出演しているコリンヌ・ クレリー。ものすごくセクシーです。
犯人役を演じているのはデヴィッド・ヘスという俳優さんです(『鮮血の美学』でも加害者役)。イヤらしくて悪そうな顔をしているんですよねェ……。
旦那さんよりもデヴィッド・ヘスとの方がお似合いなのがなんだか複雑です……。
また、エンニオ・モリコーネという映画音楽の巨匠が音楽を担当しています。
ムフフシーンで流れる音楽(予告編でも流れます)がカッコいいです。
『暴行列車』の音楽もエンニオ・モリコーネが作ったそうなのですが、そちらはあまり印象に残っていないです……。
白昼の暴行魔
修道院の女学生たちと尼僧が合宿中の別荘。そこに強盗犯たちが逃亡してきて……。
1978年。冒頭でジャッロ(60~70年代のイタリアのホラー)風殺害シーンがあり、さすがイタリア映画! ヒャッハー! と喜んだのも束の間、その後終わり10分位までグダグダ……。
尼さんと女性徒数名が海辺の別荘に滞在していると、そこに強盗3人組が現れ……というストーリーなのですが、途中女性徒たちと強盗がちょっと仲良くなっているような雰囲気があるのですよね(一緒にテレビを観たり海に行ったりしている)……。
女生徒も昼間は結構ノビノビと過ごしているように見え、逃げようと思えば逃げられるのでは……? と思ってしまいます。
しかし終盤になって、これまたジャッロ的な残酷な殺しが発生し、そこから物語が急転します。
本作の最後のシーンはクエンティン・タランティーノ監督の『デス・プルーフ in グラインドハウス』の最後のシーンに影響を与えている
Wikipedia
とのことですが、なんだかちょっと出典があやしい……。
確かによってたかって……という所は同じですが、果たしてどうなんだろう……?(ちなみに『デス・プルーフR』は素手ですが、『白昼の暴行魔』は武器を使いまくります)。
また『鮮血の美学』がなぜか『白昼の暴行魔II』というタイトルでテレビ放映されたようです(実際は両映画には何の関係もありません)。
発情アニマル
都会から避暑地にバカンスにやってきた女流作家。何か不穏な雰囲気を感じつつも、1人で休暇を満喫していたのだが……。
1978年。この映画は前半部分がとにかくしつこくて、精神的にものすごくキツいです……。
ボロボロになった被害者の女流作家は、その後色仕掛けで敵をひとりひとり誘い込み、復讐を遂げていきます。その復讐方法がちょっと凝っていて素晴らしい。
そして予告編にも出てくるボートに乗って斧シャキーン……! のシーンは本当にクール! ヒロインの眼光がまるでハンターのようです。
ちなみに、原題の『I Spit on Your Grave』は「お前の墓に唾を吐く」という意味です。「死んでも許さない!」という強い恨みが伝わってきますね……。
『発情アニマル』という邦題も強烈です。当時はポルノ映画扱いだったようなので扇情的な題名をつけられたのでしょう。しかしこれはこれでしっくりくるのがまたすごいです。
また、ヒロインを演じたカミール・キートンは喜劇役者バスター・キートンの孫なのだとか。
リメイク『アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ』
『発情アニマル』は2010年にリメイクされました(『アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴa』)。
この時代にこういった映画を作ってくれるだけでありがたいといえばありがたいのですが……しかしこれはちょっと残念な感じですね……。
前半はしつこい! のではなくてただダラダラ間延びしただけだし、後半はちょっと仕掛けに凝りすぎちゃった感があります(一応前半部分に対しての「目には目を」になっている訳ですが……そういうのはいらんかったかな……)。
70~80年代の映画が現代でリメイクされると、なぜかオリジナルの「味」とでもいうべきものや、妙な迫力、不快感が失われてしまうのが不思議です(大抵の場合残虐性は増しているにもかかわらず……。映像がキレイすぎるんでしょうかね……?)。
殺害方法ももちろん大事なのですが、ボート上で斧シャキーンとか、『鮮血の美学』だとお母さんがナイフを持ってスタタタと走ってくる所とか(この時なぜか両腕を真横に広げている)、そういった印象に残るカットがリメイクの方にはないんですよね(これは好みにもよると思いますので、あくまで私の場合ですが……)。
『アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ2』
『アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ2a』もあります。
これは『アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ』の続編という訳ではなく、全く別のストーリーです。
かなり陰惨としているのですが、70年代ホラーとは陰惨さの質が違います。『ホステルR』に似たムードがあるような……。
××を万力で潰す所はかなりショッキングでした。
『アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ3a』が『アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ』の続きですが、私は未見です。
『アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ アナザーa』は邦題が変更されただけで、このシリーズとは全く無関係の映画のようです。
サベージ・キラー
結婚を間近に控えている美しい女性。彼女は一人旅をしている最中に、ある事件に巻き込まれてしまい……。
2013年。暴行⇒復讐の流れは上記の映画と同じなのですが、オカルトチックな要素が絡んでくるのが目新しいです。女性が超人的な強さを持つのも納得。
中盤のちょいグロ場面には思わず大興奮。これは……! と期待に胸が膨らみます。
ところがそこからどんどんトーンダウンしていった感が否めません……残念。
しかし『アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ』でも書きましたが、いろいろ規制などがうるさそうなこの時代に、こういうバイオレンスな映画を作ってくれるだけでも感謝すべきなのかもしれません。
ヒロインがもくもくと復讐を遂行していく点(聴覚障害者のため)は『ゼイ・コール・ハー・ワン・アイ〜血まみれの天使〜』を彷彿とさせました。
ちょっと切ない展開は『ゾンゲリアa』風……?
『ゾンゲリア』に関しては詳しくはこちらをご覧ください
この手の映画に入るかどうか微妙な映画
アレックス
『アレックス』という映画もギリギリこういった系統に入るような、入らないような(復讐するのは彼氏と元彼)……。
おフランス映画だからか、上に挙げたものよりはちょっと高尚な香りがするかもしれません。
時系列が逆になっているので(『メメントa』のような構成)、復讐シーンが冒頭にあります。そのため復讐してスッキリ! という映画ではないですね……むしろかなりの胸糞悪さです。胸糞映画が好きな方はよかったら観てみてください。
ちなみに予告編で「心を揺さぶる愛の物語」なんていう言葉が流れますが……全然そんな感じではありません(サギ!?)……。
ドッグヴィル
この映画もかなりの胸糞悪さです……。復讐の仕方がかなり大味。
鬱映画として有名な『ダンサー・イン・ザ・ダークa』のラース・フォン・トリアー監督の作品です。この監督の映画はどれを観ても気分が落ち込みますね……。
女囚701号さそり
ヒロインが襲われて、そいつらに復讐するという要素は一応あるのですが、黒幕が別にいたり刑務所の場面が多かったりするのでちょっと趣が違いますかね。
しかしこの手の映画に入るかどうかは別にして、この映画はメチャクチャ面白いのでおすすめです。
ストーリーはもちろんのこと、セットが回ったり原色のライトを多用したりなど撮り方が凝っているので、そういった意味での面白さもあります。黒尽くめの梶芽衣子さんもコワ美しくてカッコいい!
カルト映画がお好きな方は是非ご覧になってみてください。
『女囚701号さそり』は下記の記事でも紹介しています
悪魔を見た
この映画はほとんどある1人の男への復讐シーンで占められています。
しかも1回では殺さず、なぶっては逃がし、なぶっては逃がしを繰り返し、徐々にその復讐方法をエスカレートさせていきます。
韓国映画は結構バイオレンスな映画が多いですが、私が観た韓国映画の中ではこれが1番痛そうな映画です。
終わりに
上の中で特におすすめは
の2本です。
『ゼイ・コール・ハー・ワン・アイ ~血まみれの天使~』はとにかくクリスチナ・リンドバーグがキュート!
しかし黒いロングコートを着てショットガンをぶっぱなす姿はめちゃくちゃカッコいいです。
『発情アニマル』は前半のストレスが半端ないんですが、××切り落としや斧シャキーンで快哉を叫びました。
『ヒッチハイク』もちょっとひねりがきいていてよかったです(前半がちょっとタルいですが……)。
『鮮血の美学』はこういったリベンジムービーの元祖ということでカルト映画扱いになっています。
すごく好きかといわれたら私はそうでもないのですが、やっぱりなんだか妙な迫力がある気がします。
残虐シーンとコメディシーンの落差や、おかしな効果音のおかげでチグハグ感がかもし出されて、それが不安を煽るのかもしれません(全然関係ないのですが、『セルビアン・フィルムa』という倫理的にいかがなものか……というひどい映画にもちょっと笑えるシーンがあって、それが余計に不快でした……)。
どれもあまり趣味がいいとはいえない映画ばかりですが、観ると「平凡な毎日って、幸せなんだなァ……!」という気持ちになれるかもしれません。ご興味がありましたらご覧になってみてください。
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