スプラッター映画というと洋画のイメージが強そうですが、この記事では日本産のスプラッター映画を紹介してみようと思います。
といっても、やはり純然たるスプラッター邦画はそれほど思い当たらなかったりします(私の勉強不足の可能性もありますが……)。
ご紹介の前に、前置きとして「私が思うスプラッター映画」についてちょっと書いてみます。
スプラッター映画とグロ映画
スプラッターとグロ……、興味のない方にしてみれば、「どっちも似たようなもんだろ!」といった感じかもしれません。というか実際似たようなものですが、私の感覚ではこの2つには微妙な違いがあります。
スプラッターは「血がブシャーッと迸る」イメージです。『エルム街の悪夢a』で、ある人物が殺される際に天井まで血しぶきが噴きあがるシーンがあるのですが、あれぞまさしく由緒正しき(?)スプラッターという感じがします。
スプラッターが行き過ぎて内臓が出てきたり、それとはまた別にバッチイものが出てきたりすると「グロ」に思えます。
という訳で、私が思うスプラッターとは、
- とにかく血がよく出る
- しかし内臓やバッチイものは映らず(映ったとしても少し)、あまり生理的嫌悪を感じさせない
- むしろ爽快
こういった感じになります。
で、邦画だとスプラッターな映画よりも、意外にグロ映画のほうが豊富な気がします(しかし両者に明確な線引きがある訳ではなく、地続きになっているような感覚です)。
ただ血がブシャーッと出るだけでは物足りない、もう少し気色悪い映画のほうが好みだな……という場合は、以下の記事をご覧になってみてください。
では、以下でおすすめのスプラッター邦画をご紹介していきます。
死霊の罠
邦画では珍しい王道スプラッター・ホラー
テレビレポーターをしている名美のもとに、あるビデオテープが送られてくる。そこには名美そっくりの女性がなぶり殺しにされる映像が収められていた。
名美は映像の真相を探るべく、撮影現場と思しき建物にテレビ局の仲間4人と共に潜入することにしたのだが……。
1988年の映画。DVDのパッケージには「日本初!! 本格的スプラッタ・ホラー」との謳い文句が書いてあります。それまでもオリジナルビデオなどではスプラッターものがあったのでしょうが、劇場映画としては初、ということなのだろうと思います。
しかし実は1986年の映画で『処女のはらわたa』というものがありまして、これも「日本初のスプラッター・エロスムービー」と宣伝されていたようです(私は未見です)。
『死霊の罠』は「日本初!! 本格的スプラッタ・ホラー」ですから、「こちとらバリバリのスプラッターだぜ! これこそが本当の日本初だぜ!」と『処女のはらわた』に対抗心を見せているのでしょうか、それともそれは穿ち過ぎで、このコピーを考えた人がただ単に『処女のはらわた』の存在を知らなかったのでしょうか……?
――と本当に日本初かどうかはさておき、「本格的スプラッタ・ホラー」という部分に焦点を当てるとするならこの謳い文句はダテではなく、かなり洋モノホラーに近い雰囲気になっています。
音楽や殺人方法の多彩さはイタリアンホラー、勢いのあるカメラワークは『死霊のはらわたR』、冒頭の猟奇的なビデオ映像は『ビデオドロームR』を彷彿とさせます。
最終的に思いもよらぬ方向に進んでいくのも『サスペリアa』的で私は楽しめました(人によっては「なんじゃこりゃ」となるでしょうが……)。
ここまで殺しや脅かしの仕掛けに凝っていて、しかも豪快な映画は邦画ではなかなか見当たらないんじゃないかと思います。
続編『死霊の罠2a』もありますが、こちらはかなりグロいです。
それと佐野史郎さんの演技がイッちゃってます(グロ映画の『LSD~ラッキー・スカイ・ダイアモンドa』)ほどではありませんが……。
人魚伝説
海女さんの復讐劇! 悪人どもを刺して刺して刺しまくる!
みぎわと啓介は新婚夫婦。みぎわは海女を、啓介は漁師をして生計を立てている。
ある夜、啓介は海で釣り人の乗った舟が爆破されるのを目撃する。しかし翌日になって、町で事件のことを話題にしている人は誰ひとりとしていないのだった。
あれは殺人事件だったのでは……? と訝しむ啓介。真相を確かめようと、みぎわと啓介は海に向かい、みぎわが海に潜ることにしたのだが……。
『人魚伝説』――この美しい題名に反して、邦画史上稀に見る大量殺人シーンが出てくる映画です。
主人公のみぎわはあらぬ疑いをかけられて、いつの間にかたったひとりで巨大権力に立ち向かうことになります。現実的に考えるといろいろと無理がある展開なのですが、みぎわの目力や、そのちょっと荒っぽくも見える言動から意志の強さが伺えて、ああ、この女性ならやってやれないこともあるまい……という気にさせられます。
みぎわは実際に目的を果たし、町に血の雨を降らせることになります。自身も血に染まります。予告編をご覧頂けると分かりますが、ちょっと染まりすぎなくらい染まります。
ちなみに私はこの映画で「渡鹿野島」のことを知りました。現在では既に性産業は廃れているようなのですが、割と近年まで「売春島」との異名があったのだとか……。映画も強烈ですがこの事実にも結構な衝撃を受けました。
また、この映画の監督は池田敏春さんという方で、上で紹介した『死霊の罠』の監督でもあります。池田監督はこの『人魚伝説』が撮影された三重県志摩市の海岸で2010年にお亡くなりになったそうです。
この子の七つのお祝いに
針で写真をププププ……! 血と怨念が迸る!
ある晩、女性が自室で何者かに殺害される。フリーライターの母田は、「青蛾」という占い師が事件に関わっているのではという疑いを抱き、青蛾について探り始める。
のっけからかなりのスプラッター! そして劇中にも大量の血液が流れるシーンがあります。
冒頭のシーンは鮮血が迸る! まさにスプラッター! という感じですが、劇中のシーンはじわ~っ……と血の池が広がっていくような雰囲気です。このじわ~っ……がなんとも陰鬱で日本的に思えるのは恐らく私だけではないはず。
というなんだかじめじめした湿り気を帯びた怖さがある映画なのですが、その原因の大部分を担っているのがなんといっても岸田今日子さんの演技です。写真の一部……ある人物の顔が写っている部分のみを一点集中して、針でププププ……と刺すシーンがたまらなく怖い。
それとある方のセーラー服姿が語り草になっています。
オールナイトロング
鬱屈した若者たちがかもし出す不穏すぎる空気感
ある男が、朝から堂々と通り魔殺人を行う。その現場に居合わせた少年3人は、その事件をきっかけにして交流を始めるのだが……。
これはちょっとおすすめしてもいいものかどうか迷うショッキングな映画なのですが、かなり強烈に印象に残っているので載せておきます。
同じ血が出るにしても、ブシャーッ! 大味! 豪快! そして後に尾を引かない、というような映画もあれば、なぜだかとてつもなく不快、そして不安な気持ちにさせられる映画もありまして、これは完全に後者です。
まず始めのほうに出てくる通り魔殺人の様子が異様です。一見普通の人なのに、ああ、実はこの人は……となる瞬間がある。それがものすごく怖い。その後の凶行も恐ろしい。
そしてまともだったはずの少年たちが今度は……。あの通り魔事件の影響なのか、それとも人間はタガが外れれば誰もが凶暴になってしまうものなのか……。
この映画の不快さはグロ映画に近いものがありますが、映像的にはそこまでグロい場面がある訳ではないのです。にもかかわらず極めて不穏な雰囲気に満ちているのは、ある意味すごいことだと思います。
悪の教典
陽気なジャズの調べに乗せての大量殺戮
蓮実聖司は生徒から絶大な人気を誇る高校の英語教師。しかしその明るさや誠実さは見せかけにすぎず、恐ろしい裏の顔を隠し持っていて……。
ここまでたくさんの人が殺される映画は邦画だとなかなかないでしょう(戦争ものや災害ものは別にして)。『人魚伝説』とどっこいどっこい、いや、人数だけでいえば『悪の教典』のほうが上回っているかも……?
そして犯人がスマートなサイコパスであり、あっけらかんと人を殺しまわる点がアメリカ的(あくまで私見ですが)。シリアルキラーテッド・バンディや、映画『アメリカン・サイコR』を思い起こさせます。
見せ場ともいえる大量殺人のシーンで、陽気にアレンジされたジャズナンバー(『マック・ザ・ナイフ』)が流れるのがなんとも悪趣味。しかしなぜだかあまり胸糞悪くはないのですよね。
上に挙げた『オールナイトロング』のほうが死ぬ人数は少ないのですが、なんだかじめじめしていて後味が悪い。『悪の教典』はあまりにもカラッとしているので、あっけにとられてしまいます。犯人の怨念だとか懊悩だとかが丸っきり伝わってこない。というかそんなものはハナから持ち合わせていないし、分かりやすい狂気や錯乱を見せることもない。このあたりも邦画としては異質なんじゃないかと思います。
HOUSE ハウス
無茶苦茶ァ! サイケでキュートでポップでキッチュなホラーコメディ
中学生の「オシャレ(あだ名)」は、学校から帰ると父から再婚するという話を聞かされ悶々とする。
継母と一緒にいたくないオシャレは、夏休みということもあって田舎に住んでいるオバチャマの家に友達6人と共に泊まりにいくことにするが、その家はなんだかあやしげな雰囲気で……。
これはゴリゴリのホラーではなくて、ホラーコメディです。かわいい女の子たちが首だけになったり、足だけになったり、指だけになったり、オバチャマの口から目玉がキョロキョロ覗いたり……とこう書くとものすごく物騒ですが、そういったシーンも全く怖くなくむしろ漫画的です。
全体的にシュールな雰囲気で、主人公が父や伯母にも「オシャレ」というあだ名で呼ばれていたり、背景が思いっきり書き割りだったりします(しかもそれを俯瞰で堂々と見せているし……)。
当時はもちろん、現代でもここまで突拍子もない映画はなかなかなさそうです。
発狂する唇
予告編はなんだか怖そう、しかも脚本家が『リングa』の高橋洋さんとくれば、本格的なオカルトホラーを想像してしまいますが、実はとんでもなくカオスな映画です。
なぜこの位置に載せたかといえば、スプラッターあり、アクションあり、ミュージカルあり……と、その無軌道ぶりが『HOUSE ハウス』に似ている気がしたからです。ただ『発狂する唇』は『HOUSE ハウス』よりはだいぶお下劣で、かわいらしさは微塵もありませんが……。
大杉蓮さんと阿部寛さんが出演されています。どちらの役も大変だったと思いますが、特に大杉蓮さんのはっちゃけぶりが凄まじい。名優も過去にいろいろな仕事をこなしてきたのだなァ……と遠い目にさせられること請け合いです。
その他のスプラッター映画
上でも書きましたが、邦画だと(私が思う)純然たるスプラッター映画はそれほど多くありません。コメディっぽくなるか、それともグロまで突き抜けてしまうかの両極端な気がします。
『片腕マシンガールa』や『東京残酷警察a』などはコメディーっぽいスプラッターにあたるでしょうか。
『スウィートホームa』『エコエコアザラク WIZARD OF DARKNESSa』『ヒルコ 妖怪ハンターa』にもちょこっとスプラッター描写が出てきますが、本当にちょこっとです(『ヒルコ 妖怪ハンター』はまた別の機会に紹介したいくらいヘンテコで面白い映画ではあるのですが)。
またホラーとは少し趣が違いますが、時代劇の『子連れ狼a』や『修羅雪姫a』にも結構なスプラッター表現があります。
それとカルト映画『薔薇の葬列』にも血みどろなシーンがあって印象に残っているのですが、
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DVDのパッケージが血みどろの場面……
ただこのあたりまで含めてしまうと、じゃああれも、あれも……といった風に際限がなくなりそうなのでこのくらいの紹介に留めておきます。『薔薇の葬列』はまた別に「痛そうな映画」などとしてご紹介できればと思います。
また、津山三十人殺しに関連した『八つ墓村R』や『丑三つの村R』については別に記事にしていますので、よかったら以下の記事をご覧ください。
ではよきスプラッターライフ(?)を!
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