丸尾末広とは
エログロナンセンス、昭和レトロ、耽美、アングラ、猟奇的、残酷、怪奇幻想……独特な世界観と美しい絵を持ち味とする異端の漫画家です。
この記事では、丸尾末広のおすすめの漫画と画集をご紹介します。
長編漫画、連作
少女椿
見世物小屋のみどりちゃん
母が死に、行くあてもないみどりちゃん(12歳)は、見世物小屋のをぢさんの甘い言葉についだまされて小屋の芸人にされてしまひ……。
丸尾末広の漫画で一番有名な作品かもしれません。
昭和レトロ、幻妖怪奇、耽美、残酷描写、エログロ、ブラックユーモアなど、丸尾末広のテイストがふんだんに詰め込まれた代表作ともいえそうです。
上の画像の表紙以外のものは改訂版のようなので、中古で上の表紙のものを探すといいかもしれません。
(改訂版では、グロい部分や作者のあとがき的なナンセンスな文章がカットされているようです⇒参考:Amazonのレビューa)
改訂前の『少女椿』は、Amazonだとプレミアがついていてちょっとお高いです。もしかしたら町の古本屋さんを巡った方が、もう少し安い値段で入手できるかも……?
アニメ『地下幻燈劇画 少女椿』
アニメにもなっていて、「検索してはいけないトラウマ鬱アニメ」などといわれているようです。
アニメの冒頭は『哀切秘話 少女椿』(『丸尾地獄a』『薔薇色ノ怪物a』所収)がもとになっていますが、以降はほぼ『少女椿』と同じです。
先週は、丸尾末広「少女椿」を鑑賞したが、大半の学生が「意味わかんない」とか「キモ! ムリッ!」といった感じだった。でも、めげずにその上映禁止カルトアニメ映画のメイキングを紹介。監督へのインタビューがほとんどだが興味深い。ファン必見。http://t.co/Rw5zYZ9APA
— 風間賢二 (@k_kazama) 2014年6月18日
2016年に実写映画化Rもされましたが……私は未見です(イメージが壊されそうなので、恐らく今後も観ないかと……)。
犬神博士
“式の王子におたずねもうす!”
式神を操る呪術師、犬神博士の戦いを描く連作漫画。
少年誌に掲載されていたので、エログロ度は丸尾末広作品にしてはかなり控えめですが、子供の頃に読んだら軽くトラウマになりそうな位の描写はちょこちょこ出てきます。
雰囲気的には『帝都物語a』に近いかもしれないです(オカルト・アクションという感じ)。
ちなみに、夢野久作の同名小説『犬神博士R』とは全くの別物です。
笑う吸血鬼
まるで映画を観ているような美しさ……!
中学生の毛利耿之介は、ガード下で占いをしている薄気味悪い女、通称「駱駝女」の身の上話を聞かされて……。
これも少年誌掲載のため、ストーリーがわかりやすく、しかもきちんと面白い! エログロ具合も適度です。
絵の一コマ一コマが大変美しく、まるで映画を観ているようです。
影のある美少年・耿之介と、ヒロイン留奈のあるシーンは鳥肌モノの美しさです。
余談ですが、登場人物の名前は、もしかしたら日夏耿之介(詩人)と橘外男(小説家)からとっているのかもしれません。
続編『ハライソ―笑う吸血鬼2』もあります
続編『ハライソ―笑う吸血鬼2』も美しいですが、『笑う吸血鬼』よりも少しアクション色が強めかも……。
江戸川乱歩原作
パノラマ島綺譚
作家の人見広介は、地上の楽園、ユートピアを創造したいと夢想していた。
ある日、彼と瓜二つだった同級生、菰田源三郎が亡くなったと聞いた広介は、ある企みを思いつき……。
人間遊園地とでもいうべきユートピアの描写が見所。
芋虫
時子は、戦争で尋常ではない傷を負った夫と2人で暮らしているのだが……。
人間の醜さ、闇、そして哀しさを描いた物語です。
原作小説
漫画ももちろん面白いのですが、先に原作を読んでいた方がより楽しめるかもしれません。
特に『パノラマ島奇談』(表記が「奇談」だったり「綺譚」だったりします)は中編小説で、漫画では省略されている部分があるので……。
『芋虫』が収録されています。
『芋虫』は短編小説なので、『パノラマ島綺譚』とは逆に、漫画の方に付け足された部分があります。
しかし時間がない方や、活字を読むのが苦手! という方は、漫画でも充分乱歩ワールドを味わえるかと思います。
画集
無残絵 英名二十八衆句
禍々しくも美しい、夢の競作!
現代の漫画家である花輪和一、丸尾末広と、江戸時代の浮世絵師である芳年、芳幾の血みどろの絵を収めた画集。
描かれるのは、実在の人物、物語の登場人物など様々。いずれの絵にも共通するのは、ショッキングだということ。
残酷絵ばかりが収録された稀有な画集です。
復刻版もあるのですが、ちょっと残念かも……
まずは、オリジナル版に比べて表紙がやけにアッサリしたものになっていることがちょっと残念。
そして何と言っても、オリジナル版に収録されていた芳年、芳幾の江戸時代版「英名二十八衆句」(血みどろの浮世絵)が復刻版には収録されていないそうです。何故そんな改悪をしてしまったのでしょうか……!?
今後、オリジナル版がきちんと復刻されるといいのですが……。
参考画像:月岡芳年「稲田九蔵新助」
オリジナル版に収録されている芳年の絵の内の1枚。
「鮟鱇(あんこう)斬り」と言われている、「英名二十八衆句」中最も有名な作品だそうです。
芳年の無残絵は本当に凄まじいです(血まみれ芳年の異名を持つほど)。これをカットしてしまうとは、本当にもったいないです……。
【浮世絵に影響を受けた有名人】芳年の残酷絵は芥川龍之介や三島由紀夫、江戸川乱歩が影響を受けたと言われているわ。特に芥川は「英名二十八衆句」を何点か所有していたけれど、あまりの惨さに寝られなくなり、遂に手放してしまったとか。彼らの激烈な生き様や文学は芳年の美学が由縁だったのね。
— 浮世絵たん (@ukiyoe_tan) 2015年10月3日
『ちびまる子ちゃん』との繋がり
ところで、「花輪」「丸尾」……といえば何か思い出しませんでしょうか?
そう、あの『ちびまる子ちゃん』の花輪君、丸尾君の名前は、この両名がもとになっているという噂です。
丸尾末広の『笑う吸血鬼』の帯にさくらももこが文章を寄せていたりもしたので、恐らくさくらももこがお二方のファンなのでしょう(作風が全く異なるので意外ですが……)。
新世紀SM画報
小説の表紙やCDジャケット、未発表のイラストや創作ノートが収録されている作品集。
上記は新装版ですが残念ながら絶版のようです。
旧版「新世紀SM画報」の表紙
新装版が絶版ということは、こちらの朝日ソノラマから出た旧版も当然とっくに絶版になっています。これも旧版の方が表紙がカッコいいような……。
短編集
- 長編より更に過激な表現が多いです(特に昔の、青林堂が発行しているもの)。
- ストーリー漫画としての面白さは皆無に近いです。エログロナンセンスが大丈夫という方以外は読まない方がいいと思います。
- 収録作品にダブりが多いです。よくダブっているのは『無抵抗都市』『耳ナシ芳一』『さらば昭和』などです。ご購入の際はご注意ください。
以下、新しく刊行された順に、なるべく収録作品がかぶらないようにおすすめを挙げていこうと思います。
瓶詰の地獄
これは2012年発行のものなので、それほど過激ではありません(エンターブレインが発行しているものは比較的おとなしめといえそうです)。
『瓶詰の地獄』は夢野久作の名作短編小説『瓶詰の地獄R』を漫画化したものです。
真面目に漫画化しています(後に出てきますが、昔は夢野久作の小説のひどいパロディを描いていました)。
その他、『かわいそうな姉』という漫画が収録されています。
これは渡辺温の短編小説『可哀相な姉a』にインスパイアされているのかもしれません(筋は少し違いますが)。
他に落語をもとにしたものなど、全部で4編の漫画が収録されています。
月的愛人―ルナティックラヴァーズ
1995年発行。
『無抵抗都市』『耳ナシ芳一』、そして少年誌に発表する以前、SM誌に発表して打ち切りになったという『犬神博士』のプロトタイプ的なものが収録されています。
また、『屋根裏の哲学者』という短編漫画は、江戸川乱歩の短編小説『屋根裏の散歩者R』に影響を受けているものと思われます。
新装版は2007年発行。これも旧版の方がカッコいいような……?
現在どちらも絶版のようです。
ちなみに、『丸尾地獄2』と収録作が結構かぶっています。
こちらにも『無抵抗都市』『耳ナシ芳一』『犬神博士』のプロトタイプ版が載っています。こちらも絶版……。
丸尾地獄
1988年発行。
デビュー作『リボンの騎士』の他、『哀切秘話 少女椿』(『少女椿』の元になったと思われる短編漫画)、江戸川乱歩の短編小説『芋虫』を思わせる『腐ッタ夜―エディプスの黒い鳥』が収録されています。
『リボンの騎士』は今とは少し画風が違いますが、デビュー時からこれだけの画力があったとは……! と驚かされます。
その他、『眠り男』『SOSボーイ』『カリガリ博士復活』(この辺もよくかぶる作品かもしれないです)なども入っていて、しかも表紙がカッコいいです。
しかし残念ながら、こちらも絶版のようです(2001年発行の新装版も)……。
デビュー作『リボンの騎士』と、『哀切秘話 少女椿』は、最初の作品集『薔薇色ノ怪物』にも収録されています(1982年発行。新装版は2000年)。
こちらにはその他『腐ッタ夜』『腐ッタ夜 ちんかじょん』という、『丸尾地獄』収録作品と名前が似ている作品が収録されています(ややこしい……)。
パラノイア・スター
1986年発行。
『電気蟻―吾が分裂の華咲く時』という強烈な短編漫画が載っています。これはエログロというより、サイバーパンク的な作品かもしれないです。
『贋作 電気蟻』という作品もありまして、こちらは映画『ブレードランナーR』に似た雰囲気です。
また、『日本人の惑星』はファンの間で評価が高いようです。日本良い國強い國!
上記『パラノイア・スター』と、1989年発行の『国立少年 ナショナルキッドa』から、著者自らが作品を厳選して、この『新ナショナルキッド』を作ったそうです。
『国立少年 ナショナルキッド』も『パラノイア・スター』も持っていなければ、こちらを購入するのもありかもしれません(どれも絶版ですが、『新ナショナルキッド』が一番新しいので入手しやすいかも……?)。
DDT―僕、耳なし芳一です
1983年発行(表紙は1999年発行の新装版)。
エログロ度、猟奇度は相当高めです。
ただ、『あらかじめ不能の恋人達』などは、シュールレアリスムに通ずる雰囲気があるような気がします(特に1)。
他に『少女地獄』という、夢野久作の同名小説R(の内の一編『火星の女』)をパロディ漫画化したものが入っていますが、まァこれはひどいです。お下劣です。
ちなみに、題名から入っていそうに思えますが、『耳ナシ芳一』はこちらには収録されていません(これまたややこしい……)。
こちらは珍しく新装版の方がカッコいいような……。
あとがき
この記事のために改めて調べてみた所、思いのほか絶版になっている作品が多かったです。
新装版が出ていても、内容が改悪されていたり、旧版の方が表紙がカッコよかったり、それもまた絶版になっていたり……(表紙については完全に好みの問題ではありますが……)。
再販するならオリジナルそのままで出してほしいものですが、熱烈なファンがカバーを変えたりするだけで同じものを買ってくれるので、ちょこっと改変して出すのかもしれません。
それと昔なら見過ごされていた表現が、現代ではマズいかも……ということで変更されているというのもありそうです(『少女椿』など。)
ご興味がある方は、ネットや古本屋などを活用してお好みのバージョンの漫画や画集をお探ししてみてください。