映画『シン・ゴジラ』を観てから2週間ほど経ちました。
素晴らしい感想や考察が既に巷に溢れているでしょうから、特に私が書く必要というのはないのですが、自分の中でなんとなく感想がまとまってきた気がするので書き残しておきたいと思います。
ちなみに、
- 私は怪獣映画にはこれまであまり興味がなかった
- パンフレットを買いたかったけれど売り切れていた
という感じなので、間違ったり的外れなことを書いているかもしれません。それと考察はなく、ただの感想です。
……と予防線を張った所で、以下に『シン・ゴジラ』の感想を書いていこうと思います。
第3形態のゴジラ
第2形態のゴジラが蒲田にドタドタ現れた時にはちょっと面食らいました。やたら目玉がギョロっとしていて、まるで『人魚の森』のなりそこないのようだったので、「あれ? ゴジラは???」という気持ちに……。それとCGに少し不安を覚えました(ちょっとゴジラが浮いていたような……)。
しかし第3形態になったゴジラは、これぞゴジラ! という見た目だったので、安心して興奮(?)できました。
ゴジラの皮膚から見え隠れする溶岩のような赤い光が美しくも恐ろしい……!
ゴジラが米軍に攻撃される夜のシーン。ゴジラがボタボタボタッと出血し、人間の攻撃がはじめてゴジラにきいたか……!? と思わせてからのゴジラの覚醒……!
ゴジラが怒りの雄叫びをひと声上げると、赤いマグマの光が青白く変化して、口からピギャーッとレーザー光線を吐く! そして背中からも無数のレーザーが……! それにより撃墜されるヘリコプター……!
このシーンは本当にものすごい迫力でした。
夜の方がCGのアラも目立たず(ちなみに初代『ゴジラ』が素晴らしいのは白黒であることも手伝っていると思います)、ゴジラの体から放たれる光やレーザーの美しさが際立っていました。
止まった&凍ったゴジラ
その後休憩? に入ってピタッと止まってしまったゴジラ。半壊したビルとゴジラのシルエットを見て、エヴァの活動限界を思い起こしました(他にも会議中にエヴァの音楽が流れたり、コンピューターの画面がネルフのそれっぽかったりと、エヴァを見たことがあると「あっ」となる場面がありました)。
それと終盤の、凍ったゴジラが遠くに見えるシーン。
夜のゴジラと、止まったゴジラのシルエット、そして凍ったゴジラが遠くに見えるシーン、これらを見ることができただけで、私はもうこの映画を映画館で観てよかったと満足しました。
映画ってこういう印象に残るシーンがあればもうそれだけでいい気がします(もちろん、印象に残るシーンには個人差がありますし、また、それだけじゃよくない! という方もいるでしょうが)。
ヤシオリ作戦
新幹線が特攻隊長として突っ込む! 高層ビルを爆破してコツコツダメージを与える! そして仕上げに在来線……! という辺りはワクワクしました。
本来ならただゴジラに破壊されるだけのビルや電車を武器に使うのはナイスアイデア!
どうせ壊されるならこっちからやったれー! 的なヤケクソ感が素晴らしかったです。
それと「ヤシオリ作戦」がうまくいったことは素直によかったです。
あるゾンビ映画で、あの街はもうダメだ……と偉い人に判断されたのか、街ごと壊滅させられてしまうというものがあります。それまではコメディのノリだったのに、ラストでちょっと後味が悪かったので、そういう事態にならなくてホッとしました。
ドラマパート
ゴジラが動いていたのって、2時間中15分くらいでしょうか(測っていた訳ではないので正確には分かりませんが)。
もっとゴジラが暴れている所を見たかった気もしますが、あまり出すぎるとありがたみがなくなるのでこれくらいでよかったのかもしれません。
映画の大部分を占めるドラマパートについては、「実際にゴジラが出たらこんな感じになるんだろう」とリアルで納得できました。
最初の総理大臣、大杉蓮さんの「今ここで決めなきゃいかんのか!」というアタフタ感や、次の総理大臣、平泉成さんの「こんなことで名を残したくなかったなァ……」なんていうどこか達観したようなつぶやきが印象的でした。
長期戦になって、現場がちょっとダレてくる感じなどもよく伝わってきました。非常事態の時でも、やはり人間はずっと緊張しっぱなしではいられないだろう……という。そしてちょっとダレた所でゴジラが出現……! とメリハリがきいているのがよかったです。
ただ終盤で、竹野内豊さんが「日本はスクラップ&ビルドでやってきた。これからもだ。どうせ首都が壊れたからやりやすいように新しく作る」というようなことを言っていました。それは結構なのですが、その後の長谷川博己さんと石原さとみさんのやりとりから、どうも親の七光りである2人が将来総理大臣と大統領になりそうなことを臭わせています。しかも長谷川博己さんが(俺に政治家を続けろというのは、アメリカ大統領の)「いい傀儡になりそうだからだろう」などとも言います。なんだかリアル……リアルですが、スクラップ&ビルドなどというのなら、親の七光りはなんだかなァという感じではありました(お二方は能力もある、という設定ではありますが……)。
キャスト
石原さとみさんについて
賛否両論ある石原さとみさん、私は演技や英語の上手い下手はよく分かりませんが、石原さとみさんは単純にこの役に合っていない気がしました。
じゃあ誰が合っているのかといわれたら、安易な発想かもしれませんが、パッと思い浮かんだのは菊地凛子さんです。
菊地凛子さんなら英語もペラペラだし、長谷川博己さんと並んだ時の身長差もちょうどいいのではないかと。変にコミカルで難しい役どころではありますが、菊地凛子さんの演技力をもってすればそれほど不自然にならずにこなすことができたのでは……。
しかし菊地凛子さんだと、クールビューティっぽい雰囲気が市川実和子さんとちょっとかぶっちゃうでしょうか?
なんなら日本語を喋れる外国人女性や、いっそのこと役柄自体が男性でもよかったのかも……。
有名人が端役で出演していることについて
それと有名人がチョイ役で出ていることに関してはちょっとう~ん……となりました。
そういう所にお金をかけるなら、第2形態のゴジラのCGなどにその分のお金をつぎこんでほしかったような。
チョイ役に有名人を使うのは観客へのサービスのつもりなのでしょうか。『デビルマンa』でもちょこちょこ有名人が出てきましたが、あれって観ている側としては別に嬉しくないような……(『デビルマン』を引き合いに出すのは『シン・ゴジラ』に失礼かもしれませんが……)。
ゴジラの動きを野村萬斎さんがやっていることについて
また一緒に観に行った人が、「ゴジラの動きは長年のゴジラファンにやってもらった方がよかったのでは」と言っていて、それはいいアイデアかもと感じました。
オーディションでゴジラファンを募って、ゴジラの動きを真似てもらうという。ゴジラファンだったらゴジラの動きを知り尽くしているだろうし、なんだったらギャラなしで喜んで出演してくれそう。話題にもなりそうだし。
そしてその分のお金をやっぱりCGにまわす……なんて都合よくはいかないものでしょうか。
「ゴジラである必要がなかったのでは」という意見について
映画館を出て、とにかく夜のゴジラがすごかったので興奮していたのですが、心のどこかでちょっとした違和感を覚えてもいました。
そのため感想を書くまでに少し時間をおき、その間に未見であった初代『ゴジラR』(1954)を鑑賞し、またその原作本『ゴジラ、東京にあらわる
a』を読みました。
映画も小説も素晴らしかったです。映画については上の方でもちょこっと書きましたが、白黒の画面が功を奏していてゴジラが大変恐ろしい。
そして芹沢博士の物憂げなキャラクターや眼帯、オキシジェン・デストロイヤーという中二病的な名称の兵器……。
またなんといっても、ゴジラの存在が作品のテーマに直接繋がっていることが印象的でした。
「ゴジラはジュラ紀~白亜紀にかけて誕生したと見られる生物で、今日まで海底洞窟でひっそりと暮らしてきたのだが、水爆実験によって環境を破壊され安住の地を追い出されたのだと思われる。
水爆の影響によって放射性因子を帯び、奇怪な白熱光を全身から発することになったのだろう」
……ということで、ゴジラもまたある意味水爆実験の被害者であることが描かれています。
そして映画も小説も、「水爆実験が続けて行われるとしたら、またゴジラが現れるかもしれない」というラストになっています。水爆実験、よくない! という一貫したテーマが伝わってきます。
初代『ゴジラ』をきちんと観たり読んだりしていなかったものの、ゴジラが「水爆の落とし子である」ということをなんとなく知っていたので(原作者である香山滋さんの他の小説を読んでいたので、その解説などに出てきたのかも)、私は『シン・ゴジラ』のゴジラの扱いにちょっと違和感を覚えたのかもしれません。
『シン・ゴジラ』では、ゴジラがただの害獣……というか、震災のような扱いになっていました。
震災の代わりになるものならば、どんな怪獣でもよかったのでは……「水爆の落とし子」であるゴジラである必要はなかったのでは……と、初代『ゴジラ』にほんの少ししか触れていない私でもちょっとそう思ってしまったので、ゴジラに思い入れがある方はもしかしたらもっと強い違和感を抱いたかもしれません。
しかし、
- 初代と同じテーマを繰り返したら繰り返したでまた何かいわれる恐れもある
- ゴジラと違う新しい怪獣を生み出しても人が呼べるかどうか分からない
- 震災のことを直接描く映画を作るにはまだ時期尚早
……などなど、いろいろな事情があったのかもしれません。
その他
- 子供をターゲットにはしていないようなので、グロシーンがもっとあってもよかった気がしますが(私がちょいグロ好きだからでしょうか)、そうするとグロの印象が強くなりゴジラのインパクトが薄れる可能性があるので、やっぱりこれでよかったのかもしれません。
- 庵野秀明監督といえば、実写映画『ラブ&ポップ
R』はなんだかなァ……でしたが、『シン・ゴジラ』は素晴らしかったので、最初の挑戦では微妙な結果だったとしても、次は分からない! という意味でも元気がもらえるかもしれません。
- 「戦後は続くよ、どこまでも」というダジャレや、パソコンで何かを発見した男性がワーッと部屋中を駆け回るという漫画的なノリがちょっと気になりました(漫画的といえば石原さとみさんの役自体が漫画的だったので、あの役が画面に出ている時は全部気になりましたが)。
しかしちょこちょこ気になる点はあっても、それらを補って余りある力強い映画でした。
私は怪獣映画にあまり興味がなかったのですが、『シン・ゴジラ』を観て初代『ゴジラ』も観てみようという気になりました。
そういう人は他にもいると思うので、そういった面でも『シン・ゴジラ』には功績があるといえるのかもしれません。
子供向けの怪獣映画かと思っていたのですが、そうではありませんでした! 今観ても初代ゴジラは恐ろしい……!
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