フランス映画というとちょっと難解そうなイメージをお持ちの方がいらっしゃるかもしれませんが(というか私が持っています)、フランスのホラー映画には意外とゴリゴリのスプラッターが多いです。しかも雰囲気がじめじめしていて精神的にも怖いものばかり……! にもかかわらず、映像や音楽がどことなくオシャレだったりもします。
80年代アメリカの大味なスプラッターとは一線を画す現代的なスプラッターといえそうです(大味なのもそれはそれでまたいいのですが……)。
以下でおすすめのフレンチホラー4作品+アルファをご紹介致します。
『ハイテンション』
2000年代フレンチスプラッターの草分け的映画
女子大生マリーとその友人アレックスは、テスト勉強のためアレックスの実家で週末を過ごすことにした。
するとその夜、謎の男がアレックスの実家を訪ねてきて……。
ありそうでなかった最初の殺人シーンには度肝を抜かれました。
その後もスプラッター描写を所々に挟みつつ緊迫感のある場面が連続し、ラストまで一直線……!
どう考えても辻褄が合わない! という部分が多々あるので、ホラーといえども整合性を求める方にはおすすめできませんが、勢いがあれば許せる、というホラー好きの方であればお気に召すかも……。
劇中に流れる音楽もカッコいい曲が多いです。上の動画は劇中とエンディングで流れるMuseの『New Born』という曲です。
『ハイテンション』の監督であるアレクサンドル・アジャ監督はその後ハリウッドに拠点を移し、
などの活動を行っています。
『屋敷女』
そこまでやっちゃう……!? ド直球のスプラッター、なのになんだか品がある!
出産を目前に控えた妊婦・サラは見知らぬ女の訪問を受ける。不審に思ったサラが警察を呼ぶと女の姿は消え、サラはひと安心したのだが……。
キャッチコピーは「この女、凶暴につき」。
あまりにもショッキングなシーンがあり、レンタルではなんとその部分が黒く塗り潰されています(画面全体ではないので、何が行われているかはきちんと分かります)。エロでなくグロが理由でこういった加工が施されるのはかなり珍しいことではないでしょうか。
グロ大好物! という猛者は『屋敷女 アンレイテッド版a』をどうぞ。
一番ショッキングなシーンにモザイクがかかっているなら、他は大したことないのかな……? などと思ったら大間違い! 中盤からラストにかけて、えげつないスプラッター描写がこれでもか、これでもかといわんばかりに繰り出されます。
しかし時々映像がものすごくスタイリッシュなのはさすがおフランス映画(先入観……?)。
また、途中???なシーンがあるのですが、オーディオコメンタリーによると、監督が「もう二度と映画を撮れないかも……」と、やりたいことをギュウギュウに詰め込んだからなのだとか。どうりで画面から熱気がムンムン伝わってくるわけだ……! と思わず納得。
ちなみに邦題は漫画『座敷女R』をもじった……? という噂がありますが、真偽のほどは不明。内容は全く関係ありません。
『フロンティア』
あまりの恐怖に、ヒロインが産まれたての子馬のように成り果てる!
兄と3人の仲間と共に強盗を行うヒロイン・ヤスミン。しかし計画は失敗し、ヤスミンの兄が怪我をしてしまう。兄を病院に送り届けた後、ヤスミンは仲間と落ち合うことになっている宿へ向かうが、その宿には秘密があり……。
あの宿にさえ行かなければ……不条理、あまりに不条理すぎます。
ヒロインの苦難も相当なものですが、仲間も皆ひどい目に……。
設定はちょっと『悪魔のいけにえR』に似ていますが、こちらの方が雰囲気がじっとりしているかもしれません。
またスプラッター度はかなりのものです(『フロンティア』と『屋敷女』はR-18です)。
ちなみに『フロンティア』の監督であるザヴィエ・ジャン監督は、『ABC・オブ・デスa』というオムニバス映画の「X」を担当しています。
なんだかなァ……な作品が多い中、ザヴィエ・ジャン監督の「XXL(ダブルエックスエル)」は異彩を放っていて唸らされました。
『マーターズ』
凶悪な面々ぞろいのフレンチホラーの中でも最大の問題作!
ある廃工場から、丸坊主で傷だらけの女の子が必死の形相で逃げ出してくる。そしてそれから15年後……。
賛否両論ありますが、ハマる方はとことんハマるカルト的な映画だと思います。
私はこれを観た後、あまりの衝撃に半日くらい脱力して呆然としてしまいました。
スプラッター度でいうと『屋敷女』や『フロンティア』の方が上ですが、禍々しさは『マーターズ』の方が強いかも……。というか、得体の知れない恐怖や不安を感じさせるという点では、フレンチスプラッターだけでなく映画全体の中でも『マーターズ』はかなり上位に位置する気がします。
生とは、死とは……哲学的な香りすら漂う、ホラーの一言では片付けられない映画です。
その他のフレンチホラー
『ベイビー・ブラッド』
早すぎたフレンチスプラッター!
ヤンカはサーカスの女猛獣使い。ある日サーカスの豹の体が突然爆発し、その体内から脱出してきた謎の生物がヤンカに寄生し……。
この映画だけだいぶ年代が遡ります(1990年製作)。
しかし血みどろ具合は相当のものですし、音楽や撮り方がやっぱりちょっとシャレています。
ただ2000年代フレンチホラーに比べると、精神的な怖さはあまりないかもしれません。むしろちょっとコメディのように感じられる雰囲気があるかも……。
ゾンビ映画の『ブレインデッドa』にテイストが似ている気がする……と思ったら、『ブレインデッド』は1992年製作とのことで、『ベイビーブラッド』の方が先でした……驚き!
キャッチコピーは「お前の子宮を借りるぞ! フレンチホラーの原点! 超絶血みどろマタニティライフ!」。
B級っぽくていいですね。
『変態村』
気色悪さではナンバーワン……!?
歌手のマルクは車で次のライブ場所に向かっていたのだが、車が故障してしまう。マルクはやむを得ず異様な雰囲気の村で一夜を明かすことになるのだが……。
これはある意味すごい……!
クソ映画といえばクソ映画なんでしょうが、どうもそれだけで片付けてはいけないような妙な気色悪さがあります。
原題は『Calvaire』、ラテン語で「ゴルゴダの丘」を意味する言葉だそうです。なので邦題は全く違った趣きになっている訳ですが……私は邦題の方がしっくり来るような気がします(異論は認めます)。
スプラッター描写はほとんどありません。
『悪魔のいけにえ』や、『サイコa』にオマージュを捧げているらしきシーンがあり、監督はガチガチのホラー映画を撮るつもりだったのでしょうが……なぜだかちょっとシュールな映画に……。
『正体不明 THEM (ゼム)』
「実話がもと」ということだけが売り
穏やかに暮らしている若い夫婦の家に、何者かが侵入してきて……。
何者かが侵入してきてすったもんだ……というだけの話なので、時間を引き延ばすためなのか移動したり何かを探したりというそれほど重要とは思えないシーンにいちいち時間をかけすぎて間延びしています。全体で1時間17分ほどなので映画としては短い方なのですが、それがものすごく長く感じられました。
実話がもとという点は怖い……というか、残念ながら怖いのはその点だけといえる映画かも……。
『リヴィッド』
訪問介護ヘルパーの研修中である少女リュシーは、有名なバレエ教師だったという老婦人のお屋敷を訪れる。ある理由からお金が欲しくなったリュシーは、友人たちと共に夜中にそのお屋敷に強盗に入り……。
『屋敷女』のジュリアン・モーリー&アレクサンドル・バスティロ監督の2作目。
『屋敷女』でやりたいことを全て詰め込んでしまったからか、この映画はちょっと残念な仕上がりに……。
スプラッター描写はほとんどといっていいほど出てこず。ホラーというよりダークファンタジーといった雰囲気の映画です。
『サスペリアa』の舞台になった「フライブルクバレエ学校」の名前が出てきたり、『屋敷女』のベアトリス・ダルがちょこっと出演したりしているので、そういった小ネタ探しが楽しいといえば楽しい……?
『トールマン』
ある寂れた町に住む子供たちが次々と行方不明になるという事件が起こる。人々はそれを「トールマン」という怪人の仕業ではと噂していた。そしてある晩、看護師のジュリアの家からも子供が連れ去られ……。
『マーターズ』のパスカル・ロジェ監督の映画ということで、どれだけ鬼畜なのか……!? とつい期待してしまい、鑑賞前にだいぶハードルが上がっていました。
監督自身もホラーファンのそういった反応を予想したからなのか、この映画は『マーターズ』とは路線がガラッと変わっています。社会的な問題を扱ったミステリー色の強い映画です。
これはこれで悪くないのですが、『マーターズ』に比べるとちょっと品行方正すぎて小さくまとまっちゃった感が否めないような……。
『RAW 少女のめざめ』
厳格なベジタリアンの家庭で育った16歳の少女・ジュスティーヌ。彼女は獣医学校に入学すると共に、親元を離れて大学の寮で暮らすことになった。
新入生への洗礼として、ジュスティーヌは「ウサギの生の腎臓」を食べるよう上級生に強要される。
以後、ジュスティーヌの身体と精神に異常が起こり始め……。
2016年に製作され、日本では2018年に公開されました。
「失神者続出」などという宣伝文句(?)に煽られて、わざわざ映画館まで観に行ったのですが……う~ん、決して悪くはないのですが、それほど怖くもなく、グロくもなく、といった感じでした。
上で紹介した映画だと、ゴリゴリのスプラッターである『ハイテンション』や『屋敷女』などよりは、シュールな『変態村』に近い印象を受けました。
詳しくは下記の記事をご覧ください
あとがき
上記10作の映画を製作された年代順に並べると、
1990年 | ベイビーブラッド |
---|---|
2003年 | ハイテンション |
2004年 | 変態村 |
2006年 | 正体不明 THEM (ゼム) |
2007年 | 屋敷女 フロンティア マーターズ |
2011年 | リヴィッド |
2012年 | トールマン |
2016年 | RAW 少女のめざめ |
こうなります。
1990年に、80年代の世界的なホラーブームをうけて(かなり遅れをとっていますが)『ベイビーブラッド』が製作され、その後13年の時を経て『ハイテンション』が製作された。その『ハイテンション』がフランス独自のスプラッター映画の礎を築いた。
その後ちょっとシュールな変わり種『変態村』、実話がもとになったということだけが売りの『正体不明 THEM (ゼム)』などで迷走するも、2007年製作の『屋敷女』『フロンティア』『マーターズ』でフレンチホラーの底知れぬ恐ろしさを見せつける。
しかしそれをピークに徐々に失速……という流れでしょうか(あくまで個人的な見解ですが)。
『屋敷女』『フロンティア』『マーターズ』の3作が同じ年に製作されたというのが驚きです(公開はバラバラですが)。この年フランスに一体何があったのか……。
最近あまりフレンチホラーの情報を目にしませんが(私の情報収集能力が低い可能性もあります)、上記のフレンチホラー御三家(?)製作から約10年経つ訳ですから、そろそろ第二次フレンチホラーブームが来てもよさそうです。
上記で私がおすすめするのはなんといっても『マーターズ』です。この映画は人によって好き嫌いが真っ二つに分かれるようなのですが、私はドハマリしました。私の中では『悪魔のいけにえ』に匹敵する衝撃映画です。またこういう映画に出合えるといいのですが……。
この記事がこれからフランスのホラー映画を鑑賞する方のご参考になりましたら幸いです。
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