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障害者にはかわいいと言うが冴えない男子のことは平気で傷付ける人気者の女子がいた

time 更新日:  time 公開日:2016/12/06

学生の時、同じクラスに障害者の男の子がいた。大きい体を常に左右にゆらゆら動かしていて、時折奇声を発する。障害があることがひと目で分かる重度の障害者であった。
クラスの人気者の女子が、その子をよくかわいがっていた。かわいいかわいいといって抱きついたりしていた。だからといって甲斐甲斐しく世話をするということはなかった。彼の面倒をよく見ていたのは、おとなしくて無口な別の女の子であった。人気者の女子は気が向いた時にかわいいかわいいといって彼に抱きつくだけであった。今思えばあれこそが「かわいいと言っている自分がかわいい」女子というものだったのだろう。

その人気者の女子は、障害者の彼をかわいがる一方、クラスの冴えない男子のことを毛嫌いしていた。それを本人に分かるように露骨に態度で示していた。どちらとも特別仲が良かった訳ではない私が気付いた位だから、嫌われていた男子本人はもちろん分かっていただろう。その男子がどれだけの強さのメンタルを持っていたか、私には知る由もないが、全く傷付かなかったということは考えにくい。
障害者の男子はかわいがるのに、冴えない男子には「気持ち悪い」という態度を露骨に示す――。人気者の彼女の、「この人は傷付けてもいい」という基準は、一体なんだったのだろうか。

今考えても私にははっきりとは分からないが、もしかしたら彼女が障害者の彼に優しかったのは、「かわいいと言っている自分がかわいい」に加えて、無意識的に周囲の……教師などの大人も含めて……好感度を上げるためにやっていたことなのかもしれない。
無意識的に、と書いたのは、それを意識してするほど狡猾であれば、恐らく冴えない男子を大っぴらに傷付けるような真似もしなかっただろうからだ(もっと人目につかない所でいじめたに違いない)。

これは私の単なる憶測であるが……もしも冴えない男子に障害名や病名がついていたら、人気者の彼女は彼にもきっと優しく接したのだと思う。少なくとも、人前で彼を傷付けるようなことはしなかっただろう。こういう人は自分の株が下がることに関しては嗅覚が優れている気がするので。
しかしそれにより彼は救われるが、今度は別の人物……傷付けてもいいギリギリのラインの人物……が標的になっていたに違いない(そしてそれはもしかしたら私だったかもしれない)。

私はそういったことを目にして、なんだかモヤモヤしたものを感じたのだが、何度も書いているように彼女はクラスの人気者であった。実際はどうだか分からないが、少なくとも私には……尾崎翠風にいうなら、苔のように生きていた私には、彼女は人気者に見えた。こういったことから私は世の中の不条理というものを学んだ気がする。

要領がよく、世渡りが上手い人気者の彼女は、恐らく大人になった今も幸せに暮らしているに違いない。
彼女に子供ができたとして、その子供が同級生を嫌っていることを露骨に態度で示し傷付けていたら、彼女は母親としてどのような対処をするのだろうか。
自分が同じようなことをやっていたから、「まァ、これ位はいじめではないよね」と放っておくのか。自分のことを棚に上げて叱るのか。自分がそんなことをやったことすら忘れていて、「いじめはよくない」などともっともらしいお説教をするのか。

逆に自分の子供が傷付けられたらどうするのだろう。傷付いている子供の姿を見て、「あの時、私もあの冴えない男子を今の我が子のように傷付けてしまったのかもしれない」と罪悪感にかられたりするのだろうか。
いや……恐らくそんなことはない。「親の因果が子に報い……」などとは露ほども思わないだろう。きっと彼女は、冴えない男子を傷付けたことなど覚えていないに違いない。彼女にとっては、蚊やゴキブリをつぶしたほどの些細な出来事であっただろうから。
逆に、「私は障害者をかわいがってあげたほどの善人なのに、私の子供がなぜこのようなつらい目にあうのだろう」と嘆いたりするのかもしれない。

実際は、こういう人の子供はいじめっ子にはなってもいじめられっ子になる確率は限りなく低いので、やはり家族ともども幸せに暮らしていくのだろう。子供は同級生を軽くいじめながら――人気者の彼女はママ友かなんかを軽くいじめながら。そしてその口で子供に「障害者には優しくしなさい」といってきかせるのだろう。
本当は障害があろうがなかろうが、誰にでも優しくできるのが理想だと思うのだけれど……。しかし気に入らない人を平気で傷付ける人の方が、社会的に権力を持ちやすい気がする。「憎まれっ子世にはばかる」とはこういったことなのだろうか。