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江戸川乱歩と萩原朔太郎が一緒に回転木馬に乗ったという文献を探してみた

time 更新日:  time 公開日:2016/12/23

ちょっと前にこんなまとめを見つけました。

江戸川乱歩&萩原朔太郎、初対面で回転木馬に乗りゲイバーへ...孫同士の対談@前橋文学館まとめ
江戸川乱歩&萩原朔太郎、初対面で回転木馬に乗りゲイバーへ...孫同士の対談@前橋文学館まとめ

江戸川乱歩(37)と萩原朔太郎(45)が、2人で回転木馬(メリーゴーランド)に乗った、というなんだか可愛らしい話です(まとめの中だと1歳プラスされているようなのですが、数え年の年齢……? しかしどちらにしろオッサンいい大人です)。

気になったので、乱歩がそれについてどこかに書いていないか調べてみました。

「浅草趣味」

大正15年に乱歩が書いた随筆で「浅草趣味」というものがあります。
これにも回転木馬についての記述が少しありましたが、萩原朔太郎の名前は出てきません。

この「浅草趣味」という随筆について、乱歩自身が『探偵小説四十年』という作家生活を振り返る記録の中で触れているのですが、そこに萩原朔太郎との回転木馬のエピソードが出てきました。

……とそれより先に、乱歩が萩原朔太郎と回転木馬に乗るより前の大正15年に、誰と回転木馬に乗っていたのか、そしてどういった心持で回転木馬に乗っていたのか……ということが書いてありますので、それを紹介してみます。

乱歩は横溝正史とも回転木馬に乗っていた

木馬といえば、私達はよく浅草を散歩して、子供の仲間入りをして木馬に乗ったものである。横溝君など最も屡々乗ったのではないか知らん。
江戸川乱歩『探偵小説四十年「浅草趣味」』

私達……というのは、乱歩と他の作家仲間のことです。その中でも最もしばしば乗ったのが横溝(正史)君……という訳です。

何故回転木馬に乗るのかといえば、宇野浩二の小説の影響(宇野浩二の初期の作品で、好人物がメリーゴーランドから転がり落ちるという物語があるらしい)と、

乗って見ると、木馬の適度の震動と、あの耳を聾するジンタ楽隊の音楽が、からだにも耳にも快い按摩の作用をして、それを降りて、子供の見物のむれをかきわけて、館の外に出たときには、シーンと心が静まって、何ともいえぬすがすがしい気持になっているのだ。
江戸川乱歩『探偵小説四十年「浅草趣味」』

という理由からだそうです。

大正15年は、乱歩が31~32歳の頃です。子供の仲間入りをして乗ったり、子供の見物のむれをかきわけて館(「木馬館」という名の施設だったとか)を出たりしていたとのことですが、この文章からは特にそれを恥ずかしがっていた雰囲気は感じません。

その5年後、萩原朔太郎と回転木馬に乗った

乱歩が萩原朔太郎と回転木馬に乗ったのは、それから5年経った昭和6年のことです。

ごく近頃、去年(昭和六年)の秋であったか、まことに久方振りで、私はあの懐しい浅草木馬に乗ったことがある。連れはそのころ知合いになった詩人の萩原朔太郎氏で、彼もまた木馬心酔者であったから、私が恥しがるのを無理に誘って、彼は木馬に、私は自動車に、ゴットンゴットンと乗ったのである。
江戸川乱歩『探偵小説四十年「浅草趣味」』

31~32歳頃には、探偵作家仲間とよく乗っていたという回転木馬。しかし仲間内でのブーム(?)が去り、その後約5年ぶりに乗るとなったら、なんだか途端に恥ずかしくなってしまったようです。
5年の間に乱歩が精神的にスッカリ大人になったということなのでしょうか……それとも、気心が知れている横溝君とだったら、5年経っていても恥ずかしがらずに乗れたのでしょうか……?

しかし恥ずかしがる乱歩を無理に誘ったという萩原朔太郎は、この時45歳であったのだとか……! きっと若々しい気持の持ち主だったのでしょうね。

で結局、萩原朔太郎がメインの木馬にキャッキャキャッキャとまたがり、その後ろで乱歩が恥ずかしそうにチンマリと自動車に乗っていたという……(一部想像)。これはなんとも微笑ましいエピソードですね……!

その後の2人

萩原氏と公園の古風な赤毛氈の茶見世に腰をかけて、ゆで卵でお茶を飲みながら、通行の人々を眺めながら、往年の博覧会の余興について、昔々のパノラマ館の魅力について、それらのかもし出すノスタルジアについて、語り合ったことであった
江戸川乱歩『探偵小説四十年「浅草趣味」』

ゆで卵でお茶を飲みながら」……というのがなんともほのぼのとしています。

ゲイバーについて

まとめによると、2人はそれからゲイバーに行ったらしいのですが(萩原朔太郎が乱歩に宛てて書いた手紙にそれらしき店の名があったとか)、乱歩の随筆などにはそういった文章は見当たりませんでした(全部を読み直した訳ではないので見落としている可能性もありますが……)。

しかし別に行っていても不思議ではないと思います。乱歩は『探偵小説四十年』で、「浅草趣味」の後に「萩原朔太郎と稲垣足穂」という文章を書いていますが、そこには稲垣足穂に、

二人で同性愛についての対談会をやらないか
江戸川乱歩『探偵小説四十年「萩原朔太郎と稲垣足穂」』

という誘いをかけたとの記述があります(実現はしなかったようですが)。

また「同性愛文学史」という随筆も書いていますし、代表作の内のひとつ、小説『孤島の鬼R』には美しき同性愛者が登場します。
そして「乱歩打明け話」という随筆では、

意識的な、まあ初恋といっていいのは、十五歳(かぞえ年)の時でした。中学二年です。お惚気じゃありません。相手は女じゃないのだから。
江戸川乱歩「乱歩打明け話」

というカミングアウトもしているので、同性愛に興味があったことは確実でしょう(興味がなくても、好奇心が強ければゲイバーに行くこともあるでしょうが……)。

ちなみに初恋はプラトニックであったそうです。しかしそれだけに、美しい思い出として乱歩の心に残ったようです。
ガチガチの同性愛者というよりは、あくまで妄想の同性愛への憧れ……乙女が恋に恋するような……と、マイノリティへの共感を持っていたのかもしれません。

あとがき

『探偵小説四十年』は1度全体を通して読んで、その後も何回か手に取ってはいたのですが、乱歩と萩原朔太郎のこの回転木馬のエピソードについては全く気に留めていませんでした。
何回か手に取ったとはいっても、自分の好きな所を繰り返し読むことが多いので、今回このことが話題になっていなかったらずっと気付かずにいたのかもしれません。
運よくこのまとめに巡りあえて、2人の微笑ましいエピソードを知ることができてよかったです。

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