楽しい漫画もいいけれど、たまにはちょっと怖い漫画が読みたくなる時もあるかと思います。そんな時におすすめの精神的に怖い漫画6作をご紹介します。
いずれも人間の心の闇や弱さ、醜さ、狂気などを描いていて、オカルトなどとはまた違う意味でゾッとさせられます。
四丁目の夕日(山野一)
別所たけしは、印刷工場を営む父、そして母、妹、弟と共に暮らしている。
学がないことにコンプレックスを感じている父は、子供たちを一流大学に入学させることが夢だった。
しかし大学受験を目前に控えたたけしに次から次へと不幸が降りかかり……。
努力は必ず報われる……? 寝言ぬかしてんじゃねえ! とでもいうような凄まじい迫力に満ちた漫画です。
この世には二種類の人間がいるんだ(中略)
一言で言ってしまえば、”奉仕するとされる人”かな(原文ママ)
金持ちの御曹子がこういった台詞をサラリと吐くのですからなんとも胸糞悪いです。
しかしこの御曹子はそれほど悪い奴ではない(ものすごくいい奴ともいえませんが……)ので、それによりまた複雑な気持ちにさせられます。
富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる――(マタイの法則)。
『四丁目の夕日』が描かれたのは1985年ごろですが、上記「マタイの法則」は新約聖書の一節とのことなので、残念ながら人間社会には格差がつきものだということなのでしょう……。
たけしが徐々に正気を失ってゆく様はとんでもなく恐ろしく、圧巻です。またちょっとグロい場面がいくつか出てきます。
聖ロザリンド(わたなべまさこ)
8歳のロザリンドは、天使のように愛くるしい女の子。
そのロザリンドの周りで、次から次へと恐ろしい事故や事件が起きて……。
生まれた時から悪魔に魅入られた人生……!
置き時計、ダイヤ、キングコブラ……欲しいものは何がなんでも手に入れる!
そして邪魔者は焼く! ちょん切る! 毒殺する!
天性の殺人鬼、ロザリンドを待ち受ける運命とは……。
8歳の少女のはずが異様な怪力を発揮したり、よかれと思ってしたことが事件に発展したりする様がコントのようでちょっと笑える所もあるのですが、殺し方や傷つけ方がバリエーションに富んでいてしかもかなりエグいので、自ずと笑いも引っ込みます。
という映画が元ネタと思われますが、『悪い種子』の殺人鬼少女・ローダは小憎たらしくて、自分が悪いことをしているという自覚があります(罪悪感はまるで感じていないようですが)。
『聖ロザリンド』のロザリンドは、無邪気に事件を起こしていきます。そこがローダとの違いです。
しかし目的のためなら手段は選ばない……という点は共通しています。
「メアリー・ベル事件」(10歳の少女が殺人を犯した実際の事件)を連想した方もいらっしゃるかもしれません。
もしもこのように生まれついてしまったら……? もしもこのような子供を生んでしまったら……? もしもこのような子供が身近にいたら……?
考えるだに恐ろしいです。
『聖ロザリンド』紙の本が復刊!
この記事を書いた当時には電子書籍でしか販売されていなかったのですが、2017年2月に紙の本が復刊されました!
Webで第1回、第2回を読むことができます。
ブラッドハーレーの馬車(沙村広明)
ある孤児院で育った少女が、名家であるブラッドハーレー家の養女になることに。
ブラッドハーレー家の養女は歌劇団の一員になり、華やかな舞台女優として生きていくことになる。
しかし期待に胸を膨らませた少女が辿り着いた先はブラッドハーレー家ではなく……。
8つの物語からなる連作短編漫画。
特に衝撃的なのが、持ち上げてから落とす! といわんばかりの第1話と、連れられていった先で一体何が行われているのか……を詳しく描いた第2話です。
その後は暴力描写も胸糞悪さもトーンダウンしていきますが……もしかしたらこの漫画の世界観に自分が少し慣れたのでそう感じるのかも……(と思うとそれもまた怖い)。
今の平和な世から見ればあり得ない物語ですが、戦争などの非常時には信じられない位おぞましいことが行われていたようなので、人間は一歩間違えるとこの漫画のようなことをやりかねないのかもしれません。
こんなことが起こらない世の中が続きますように……。
無料漫画サイト「スキマ」で無料で読むことができます。
「スキマ」については詳しくは以下の記事をご覧ください。
天人唐草(山岸凉子)
厳格な父親と、その父親に追従する母親に、礼儀正しく慎ましやかな女性であれ、と育てられた響子。
男性への自然な気持ちを押し込め、人に気を遣いすぎるほど遣ってしまう彼女は、学校でも職場でも人付き合いがうまくいかない。
そしてある時、響子は父親の秘密を知る。衝撃を受ける彼女に、更に追い討ちをかけるようにある不幸な出来事が襲いかかり……。
冒頭で30歳の響子が登場しますが、どう見てもとち狂ってしまっています。
彼女は何故そこまで追い詰められてしまったのか――?
彼女の生い立ちが徐々に明かされていきます。
わずか60ページほどの短編漫画なのですが、性的な話題に関する厳しさを表す「天人唐草」やラブレターのエピソード、職場のあばずれ、エリート、チャランポランな先輩のキャラクター、そして彼らとのやりとりなど、無駄がなく大変濃い内容になっています。
ヘルタースケルター(岡崎京子)
スーパーモデルであるりりこは、近頃では映画やドラマ、バラエティ番組にも引っ張りだこの売れっ子芸能人。
南部デパートの御曹子を恋人に持ち、仕事もプライベートも順調そのもの。
しかし彼女の身体にはある秘密が隠されていた……。
あたしの中で音がする
カチコチカチコチ音がする(中略)
それは…
あたしの中で何かが終わる音
りりこはある特別な事情から、早く幸せを確固たるものにしなければと焦っています。
しかしこれは世の女性……いや、もしかしたら男性も含めて、誰もが理解できる心情かもしれません。
徐々に、しかし確実に、美しさ(と誰かに思い込まされているかもしれないもの)が失われてゆく恐怖……。
しかしりりこは幸せからどんどん遠ざかっていきます。
体も心もボロボロ、「自分だけが不幸になってたまるか!」と周囲に当たり散らし、事件を起こし、起こさせ、そして……。
沢尻エリカさん主演で映画化されましたが(『ヘルタースケルターR』)、沢尻エリカさんはタフで美しく、そして気性が激しいりりこのイメージにピッタリでした。
ただ映画を観るより、原作の漫画を読んだ方がいいです。
人間仮免中(卯月妙子)
波乱万丈の人生を送ってきた作者が、36歳の時、25歳年上のボビー(というあだ名の日本人男性)と恋に落ちた。
我が強い2人は時に衝突しながらも、概ね楽しく暮らしていた。
しかしある日大事件が起こり――。
この漫画はコミックエッセイ(つまりノンフィクション)です。
作者は統合失調症を患っており、これが大事件に関わってきます。
その他、
- 亡くなったご主人の金策のためにAVに出ていたこと(それもかなり特殊な)
- そのご主人が投身自殺をするも命を取り留め、しかし植物状態になり、しばらく介護をしていたこと
- その後ご主人が亡くなってしまい、背中にご主人の戒名の刺青を入れていること
- そのご主人との間にできた息子さんがいること
など、壮絶な半生が語られています。
これらの過去も、ボビーさんとのケンカも、事件が起きた後の出来事も全てが壮絶なのですが、暗い雰囲気はそれほどありません。
作中で卯月さんのお母様や親戚の方が努めて明るく振る舞っているように、卯月さんもなるべく暗くならないようにと意識して漫画を描いたのかもしれません。
ただどうしたって内容が衝撃的ですから、そのちょっとおどけた感じが余計に怖いといえば怖いのです……。
『人間仮免中』続編
2016年12月に続編が発売されました。
どれも鬱だったり後味が悪かったり胸糞悪かったりする漫画かと思いますので、元気があり余っている時に読むことをおすすめします。