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芥川龍之介、太宰治、坂口安吾はなぜ子供を作ったのか

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最近、芥川龍之介や太宰治の本を読み返していたのだけれど、以前読んだ時より今の方が断然面白く感じられた。
それで興味が湧いて、青空文庫で未読のものもちょこちょこ読んでいるのだけれど、これもやはり今読んでよかった。若い頃だったらピンとこなかっただろうものが多い気がする。

太宰治は「青春の文学」といわれることがあるようなので、私は精神年齢が幼いのかもしれない。青春といわれる時期はとっくに過ぎているのだけれど、精神年齢がようやく青春期に達したということなのかもしれない。

逆に若い頃好きだった坂口安吾の作品にはあまり心を動かされなかった。特に『堕落論』が好きだったはずなのだけれど、一体どこを好きだったのかサッパリ分からなくなってしまった。もしかしたらその題名だけに惹かれていたのかもしれないとすら思えてきた。
その代わりというか、以前はそれほど印象に残らなかった『夜長姫と耳男』は面白く読めたので、時の流れとはなんだか不思議なものである。

で、それとはまたちょっと違う話なのだけれど、芥川龍之介、太宰治、坂口安吾の子供に関しての記述を読んで少し考えたことがあったので、備忘録的に以下に書き留めておきたいと思う。

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芥川龍之介

芥川龍之介は『或阿呆の一生』の中でこんなことを書いている。

「何の為にこいつも生まれて来たのだろう? この娑婆苦の充ち満ちた世界へ。――何の為に又こいつも己のようなものを父にする運命を荷ったのだろう?」
 しかもそれは彼の妻が最初に出産した男の子だった。
芥川龍之介『或阿呆の一生』

いやいや、他人事のようにいっているけれど、あんたが作ったからでしょ……、とついツッコミたくなった。

その他に『侏儒の言葉』では、

人生は地獄よりも地獄的である。
芥川龍之介『侏儒の言葉』

と書いている。そんな風に思っているこの世に子供を生み出すってなんだか残酷だな……。時代が時代だから子供を作らない訳にはいかなかったのかもしれないけれど(そう考えると、やはり結婚中も避妊具をつけ通したという永井荷風はすごい)。

極めつきは遺書で子供たちに

若しこの人生の戦いに破れし時には汝等の父の如く自殺せよ。
芥川龍之介の遺書

と書いていることだろうか。

私が芥川龍之介の子供の立場だったら、地獄のようなこの世に勝手に生み出しておいて、立ち行かなくなったら自殺しろって……無責任すぎやしないか――とちょっと引いてしまいそうである。

その後に

汝等の父は汝等を愛す。
芥川龍之介の遺書

と書いてあるのがまだ救いといえば救いか。

太宰治

そうして、いまはKも、私と同じ様に、「生れて来なければよかった。」と思っている。
太宰治『秋風記

太宰治が『秋風記』で上記の文章を書いたのが1939年(昭和14年)、30歳の頃。

その後太宰はバンバン子供を作っている(本妻だけではなく愛人にまで産ませている)。

いやだから……なぜ避妊しない……?

30歳ごろで結婚して、その後はしばらく幸せだな……人生も捨てたもんじゃないな……と思ったのかもしれないけれど(実際作風も明るい)、1947年(昭和22年)38歳ごろに書いた『斜陽』では、

ああ、人間の生活って、あんまりみじめ。生まれて来ないほうがよかったとみんなが考えているこの現実。そうして毎日、朝から晩まで、はかなく何かを待っている。みじめすぎます。
太宰治『斜陽』

また暗さがぶり返しているし……。

作中人物の気持ちというだけであって、太宰治はそんなに人生を悲観していなかった、という可能性もあるのかもしれないが、その翌年には『人間失格』を書いて、ついには自殺してしまった方ですからね……どうも人生にそれほど希望を見い出していたとは思えない。

太宰治が遺書(『桜桃とキリストa』に載っていた)で子供について残した文章が以下のものである。

子供は皆、あまり出来ないようですけど陽気に育ててやって下さい。
太宰治の遺書

また『斜陽』には以下のような文章がある。

人間は、いや、男は、(おれはすぐれている)(おれにはいいところがあるんだ)などと思わずに、生きて行く事が出来ぬものか。
太宰治『斜陽』

もしかしたら太宰治は「おれはすぐれている」と周囲に誇示するのに疲れ果てていたのかもしれない。だから「子供にはそんなことで神経をすり減らしてほしくない」と思ったのかもしれない。

「子供は皆、……」という言葉には、芥川龍之介の「人生の戦いにやぶれたら自殺しろ」よりはだいぶ優しさを感じられる。
女癖は悪いし浪費ばかりするし先輩に喧嘩を売ったりもするし(『如是我聞』で志賀直哉をボロクソにこきおろしている)、本当にどうしようもない人だったようだけれど、こういう弱さと紙一重の優しさがあったために、周囲の人々は太宰治を憎めなかったのかもしれない。

坂口安吾

 人間をわりきろうなんて、ムリだ。特別、ひどいのは、子供というヤツだ。ヒョッコリ、生れてきやがる。
 不思議に、私には、子供がない。ヒョッコリ生れかけたことが、二度あったが、死んで生れたり、生まれて、とたんに死んだりした。おかげで、私は、いまだに、助かっているのである。
坂口安吾『不良少年とキリスト

いやだから避妊……。

我が人生観01 生れなかった子供』で、淋病にかかったり冷水浴で腰を冷やしたりしていたので、自分には子供ができないと思っていた、というようなことを書いているが、だからといって、子供が死んで生まれたり、生まれてとたんに死んだりして助かったと思うくらいなら、やはり念のため避妊はすべきだったのではないだろうか。

『我が人生観01 生れなかった子供』ではその他に、子供ができてしまって、自分のこれまでの行いから、生まれる子供に何か病毒が遺伝するのではとオタオタしたり、奥さんの不貞を疑ったりした挙げ句、

子供が生れなくて良かった、ということの方が、ほとんど私の気持の全部を占めていた。
坂口安吾『我が人生観01 生れなかった子供』

とのたまっている。ゲスですなァ……。

その数年後、坂口安吾はついに人の親となる。檀一雄『太宰と安吾R』によると、安吾は酒やアドルムという薬をかっくらって大暴れし、ブタ箱にぶちこまれ、そこから解放された朝に男の子が生まれたことを電話で知ったという(……)。

人の子の親となりて』という文章では、「はじめは戸惑ったが、とにかく五体満足でよかった、3ヶ月くらいしたら赤ん坊が犬よりかわいく思えるようになったよ」というようなことが書いてある。
それはそれは……何よりですね……。


3人ともなんだかなァ……なのだが、近くにいたら一番厄介そうなのが坂口安吾かもしれない。
「いやァ、オレも子供なんかいらないと思っていたんだけどさァ、生まれてみたらかわいいもんだよ。子供は生んだ方がいいよ」などといってグイグイ意見を押しつけてきそうな感じがする。

だからという訳でもないのだけれど、昔はこの3人だったら坂口安吾の作品が一番好きだったのだが、今は芥川龍之介や太宰治の作品の方が好きかもしれない。
太宰治が『如是我聞』で述べていた、

 日蔭者の苦悶。
 弱さ。
 聖書。
 生活の恐怖。
 敗者の祈り。
太宰治『如是我聞』

芥川の苦悩というものが、いろいろな経験を積んだことによって、身に沁みて感じられるようになったからかもしれない(「聖書」については門外漢なのだけれども、聖書に書いてあるようなことは理想・建前にすぎず、現実にはそんな聖人はいやしないし、自分も聖人にはなれない、そういった苦悩であるなら、多少理解できる気がする)。

――とまァ読む時期によって本についての感じ方は変わる、というのと、坂口安吾は生まれた子供をたまたまかわいく思えたのでよかったものの、子供を生むのはバクチじゃないんだから、そんなに子供が欲しくない人や、生まれてきたくなかったと思ったことがある人、人生は地獄よりも地獄的であると感じている人は、きちんと避妊した方がいいのでは……という余計なお世話的なお話でした。

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